煩悩ラプソディ
第1章 それはひみつのプロローグ/ON
だめだってば。
もう…お願いだからそんな見ないでよ。
「ねぇ、触りたい、」
「…近いな!なによもう、」
火照る顔を悟られたくなくて、わざとらしく大きめの声で威嚇した。
つもりだったけど、この人にとってはただのエッセンスに過ぎない。
「へへっ、触りた〜い。にの〜」
ようやく反応した俺に嬉しくなったのか、だらしなく緩んだ顔を近づけてきて頰をつまんでぷにぷにと触りだした。
ちょっとほんとにやめて。
もう無理っ…
爆発しそうな熱に耐えたくて、思わずギュッと目を瞑ってしまった。
同時に下唇を噛む強さにも力を込める。
「…どした?」
明らかにいつものリアクションと違う俺を見て、ぴったりと密着してる大野さんが更に顔を覗き込んでくる。
「え、どっか悪いの?熱あんの?」
何も答えられない俺に心配そうにそう言うと、触れていた頰からおでこに手を滑らせてきて。
大野さんの手の平から自分の熱とは別の温かさが伝わる。
「え、アツっ!熱あるよこれ!」
急にワントーン声が高くなり、驚いたように目を見開いている大野さん。
ふぅーっとゆっくり息を吐いた俺を心配そうに見つめる。
…違います。
あなたのせいだから。
「…なんともないから、」
「や、でも、」
なおも心配そうな声色で、今度は両手で頬を包むようにひたひた触りだす。
「やばいよこれ…ちょっとこっち向いて」
右手は頬に添えたまま、左手で俺の肩をグイッと押して自分の方を向かせようとする。