煩悩ラプソディ
第1章 それはひみつのプロローグ/ON
いやだ、こんな顔見られたくない。
目なんて合わせらんない…
抵抗するように肩に力を入れて頑なに顔を背けた。
頬に添えられていた大野さんの手が否応無しに離される。
「にの?…こっち向けよ」
優しさの中に強い意思が見える低い声で、ゆっくりと大野さんは言う。
そんな優しくしないでよ。
俺、もう…
そのとき、急に右腕をグイッと力強く引かれてバランスを崩した。
両手で握っていたゲーム機が床に落ち、ガチャンと鈍い音を立てる。
諮ったようにゲームオーバーを知らせる間抜けな電子音が静かな部屋に響き渡った。
目の前には大野さんの顔。
右腕はしっかりと掴んだまま、窺うようにまっすぐな瞳を向けている。
その瞳は少し怒ったような、困ったような色を従えていて。
突然の出来事に訳が分からなくなって、そのまっすぐな瞳に捉えられてしまった。
「…お前どした?
…なんかあった?教えて?俺に…」
その表情とは裏腹に、子どもを宥めるような優しいトーンで話す。
心臓の鼓動が早まる。
こんなに近くで大野さんの顔を見るのなんていつ振りだろう。
見つめる瞳が揺れているのが自分でも分かった。