煩悩ラプソディ
第32章 あいつがライバル/AN
予定より少しだけ早く到着したにのの家。
マンションの駐車場に車を停めてスマホを耳に当てる。
『はいはい』
「あ、着いたよー」
『はい、了解』
そんな短いやり取りの最中、後部座席から耳をつんざくようなデカイ声が。
「にのちゃあん!にのちゃあん!」
『…くは、優太?』
「うん。後ろでちょー騒いでる」
「にのちゃんのおうちいくー!
いきたいー!まぁくーん!」
「優太待って、にのちゃん来てくれるから」
「やだやだ!にのちゃんのおうちいくー!」
『んふふっ…すげぇ駄々こねてんじゃないすか』
後ろから叫ぶように主張する優太の声は、もちろん電話口のにのには丸聞こえで。
『相葉さん、ちょっと優太に代わって』
そう言われ、腕を後ろに伸ばして優太の耳元にスマホを近付けた。
すると途端にテンションが上がる優太。
しばらく"にのちゃん"を連呼していたと思ったら、段々と落ち着いてきて。
『うん』とか『ううん』とか『わかった』とか、にのの言葉に受け答えしてる様子が見てとれる。
一体何を話してんだって胸がざらつきつつ、優太の『はぁい』の言葉を最後にどうやら通話は切れたみたい。
「にのちゃん何て?」
「うん、あとでねって。おそといってかえってきてからおうちにあがろうって」
「え?」
それだけ言うとにのとの電話に満足したのか、優太は大人しくチャイルドシートにその小さな体を預けた。
あとでねって…
てことは…
このあとにのんちに行けるってこと?
え、もちろん俺もいいんだよね?
マジで…
にのんちとか…久々…
ふいにコンコンと助手席の窓ガラスがノックされ目を遣れば、キャップを目深に被って中を窺うにのがそこに居て。
すぐにドアを開けするりと乗り込んできたと思ったら、『おはよ』と少し照れながら笑いかけられた。
ノーガードで況してやこんな至近距離で浴びせられた笑顔に、また不覚にも胸が高鳴ってしまう。
「おっ、優太久し振り」
シートベルトを締めながら後ろを振り向き、歓喜の声を上げる優太とペタンとハイタッチをするにの。
そしてその体がまた向き直って、ずっとにのを目で追っていた俺とにのとの目線が合わさった。