煩悩ラプソディ
第32章 あいつがライバル/AN
近くのパーキングに車を停め、所々懐かしさの残る町並みを少し歩くと現れた目的地。
都心の真ん中にあるここは、こぢんまりした中にも遊園地特有の煌びやかさがそこかしこに溢れていて。
今日は平日の午前中とあって、人も疎らで丁度良く空いていた。
入場ゲートをくぐるとすぐに歓喜の声を上げる優太。
「うわぁ!はやくっ!にのちゃんっ!まぁくんっ!」
振り返ってキラッキラの瞳を向ける優太に慌てて駆け寄る。
「優太、えっとね…あんまりおっきい声で呼んじゃだめだから」
「え?なんでー?」
「いやバレちゃうから…」
「ばれちゃう?」
かくんと首を傾げる優太に説明の仕様がなくて。
「えっと、じゃあ…パパにしよっか」
「いやもっとダメだろ」
その様子を横で見ていたにのに笑いながら突っ込まれ。
「こんな遊園地で"パパー!"なんて呼ばれてんの見つかったら大ごとよ。目撃ツイートされるって。隠し子だっつって」
キャップの鍔の奥から上目でそう笑いかけられると、なんだか急に緊張感が高まってきた。
この前の時もそうだったけど、俺らがこんな真昼間の遊園地に居ることなんてまずあり得ない。
しかも仕事じゃなく完全プライベートで。
更にこんな幼児を連れてる俺らの画なんて怪しすぎるにも程がある。
もし見つかったりしてパニックになったりでもしたら、この遊園地はともかく一般のお客さんにも凄く迷惑がかかるよな。
"遊園地デート"なんて単純に考えてたけど、かなりひっそり行動しないと大変なことになりそう。
翔ちゃんのあの企画の大変さが今更になって分かったような気がするわ。
「…優太、とにかくまぁくんとにのちゃんのことはおっきい声で呼んじゃだめ。分かった?」
「え~…」
優しく頭を撫でながら伝えるけど、優太には意味が分からないことだから納得いく筈がない。
すると、見兼ねたにのが優太の前にしゃがんで顔を覗き込んだ。
「ね、優太。まぁくんの言うことちゃんと守れたらにのちゃんち来ていいよ?」
「えっ?うん!わかったぁ!」
答えるや否や、にのの首に抱き着いてすんなり快諾した優太。
そんな優太ににのもまたはにかんで応えてて。
…くっそ。
こんなことで簡単に抱き着ける優太が羨ましい。