煩悩ラプソディ
第32章 あいつがライバル/AN
財布にお釣りを入れつつ、少し前を行くにのと優太を見遣る。
にのと手を繋いだ反対の手には数枚綴りになった回数券。
それをひらひら風に舞わせながら歩く優太はまさにご機嫌そのもので。
「優太、それ落としちゃいけないから持ってようか?」
二人に追い付いて後ろから声をかければ。
「相葉さんすぐ失くすから俺が持っとく」
そう言ってにのが優太から回数券を受け取って。
「相葉さんのも俺持ってよっか?」
と含み笑いつつ手を差し出され、下から見上げてる優太にもくふふっと笑われる始末。
なんだかもう勝負はついちゃったんじゃないかってくらいアウェイ感がハンパないんだけど。
でも、まだまだ始まったばかり。
こんなことで怯んでなんかいられない。
「優太、ほら」
負けじと優太の手を取ってぎゅっと握る。
ここには俺も居るんだぞ、とささやかなアピールのつもりで握った手に優太はいきなりテンションを上げて。
「ねぇブーンってして!」
キラキラした瞳で俺を見上げる優太の言葉を受け、頭の中にハテナが浮かぶ。
「せーのっ、ブー…」
「ちょ、なにそのブーンって」
「んとね、まぁくんとにのちゃんがゆうたをブーンってするの!せんせえがしてくれるの」
ニコッと笑って俺の手をぎゅっと握る優太に、にのと顔を見合わせて。
「あれじゃない?両方から持ち上げて、飛行機みたいなやつ」
「あぁあれか!」
やっと優太のリクエストの意味が分かった俺は、にのと目を合わせて思わず笑みを溢した。
「「せーのっ、」」
「きゃー!」
にのとタイミングを合わせてぐいっと優太を持ち上げると、すぐさま甲高い声を上げて喜びだして。
『もういっかい!』と何度もねだる優太に、にのは『こんなに乗り物あんのに』って人力アトラクションにぼやいてるけど。
なんか俺は…すっげぇ楽しくて。
優太につられてるのは分かってるし、優太が居なきゃこんなシチュエーションあり得ないってのも分かってる。
でも、なんか…
こんな風ににのと同じ時間を過ごして、同じことで笑い合うことが凄く懐かしい感じがするんだ。
まるで、昔に戻ったみたいで。
にののことが特別な存在に変わった、あの頃に。