煩悩ラプソディ
第32章 あいつがライバル/AN
あの時…
後先なんて何も考えずに、まっすぐに俺の想いを伝えてれば良かったのかな。
…なんて。
後悔してみてる頭の中でさえも、そんなこと出来っこないって俺が一番分かってる筈なのに。
俺にそっくりな優太に笑いかけてるにのを見てると、どうしたってそこに俺を重ねてしまう。
その笑顔を、全部俺に向けてくれないかなって。
心ごと振り向いてくれないかなって。
…いや、やめよ。
今日はこんなこと考えておセンチになってる暇はない。
優太がにのを好きになるのは止められないけど、俺がそれ以上にのを好きでいればいいだけの話。
にのと一つでも多く楽しいことを共有してればいい。
俺が楽しめば自然とそうなるに違いない。
それなら優太に勝てる自信がある。
よしっ…!
「優太、時間もったいないから乗っちゃお!」
「うんっ!」
数メートルの距離をブーンで進んだ俺たちは、目の前に見つけたアトラクションに優太を連れて駆け寄った。
***
それからというもの、アトラクションに乗る度に数枚ずつ回数券をもぎられての繰り返しで。
にのが調べた前情報の通り付添で乗る大人は無料らしく、俺とにので代わる代わる優太とアトラクションに乗ってはいるものの。
にのは回転系には弱くて、ほとんどのアトラクションは俺が担当してると言っても過言ではない。
にのが乗ったヤツと言えば、メリーゴーランドと水上をゆっくり動く白鳥の乗り物くらい。
それでも優太は俺と乗ってる時も凄く楽しそうで、傍で見てるにのに笑顔で手を振ったりして。
だから、にのとの時は俺の時よりテンション割増な優太が分かりやす過ぎて憎めなくて。
優太が乗れるアトラクションは一頻り楽しんだ後、また手を引かれて移動した先にはパンダの群れが。
機械的にノロノロと動き回るパンダに跨った優太を、二人で少し離れたベンチから見守っていると。
「…楽しそうだね、優太」
ぽつり呟いたにのの、穏やかな声が届いた。
「くふ…ちょー楽しんでるよね」
「つぅかメリーゴーランド何回乗ったっけ?」
「3回くらい?こんなことならフリーパスで良かったんじゃない?」
「んふっ…そだね」
そう小さく笑う度に、隣り合うにのの肩が触れそうで触れない距離。