煩悩ラプソディ
第32章 あいつがライバル/AN
「なんかさぁ…久し振りじゃない、こうゆうの」
にのがベンチの背凭れに背を預けながら口を開く。
「久し振りっつうか…初めて?
こないだはあなた迷子んなるし」
「ふふっ…うん」
「新鮮、っていうのかな…いや違うな…」
投げ出してた腕を組んで考える様な仕草を見せた後、ふいにこちらを向いたにのの瞳が真っ直ぐに俺を捉えた。
「"懐かしい"かな…なんか。初めてなはずなのに」
鍔で翳っている薄茶色の瞳が柔らかく優しい色を帯びていて。
「…俺だけかな、そう思ってんの」
その瞳に吸い込まれるように目を逸らせないでいると、にのが少しだけ笑ってそんなことを言うから。
「…ううん、俺も。この感じすげぇ懐かしいなって思う。初めてなのに」
「…んふふ、ねぇ?」
にのと小さく笑い合って俺も背凭れに背を預けた。
この"懐かしさ"は、きっと俺とにのにしか分からない感覚。
初めてなのに懐かしい…
うん、そうだよ。
俺たちはずっと一緒に居たんだから。
同じ時間を共にしてきた俺たちが見てきたものや感じてきたものは、紛れもない財産なんだから。
だからそれが初めての体験や出来事であったとしても。
似通った情景や感覚が浮かんでくるくらい、俺たちは疎通し合ってる。
ずっとそう思い続けてきた。
にのも…同じだったんだね。
その事実だけで胸がいっぱいになる。
ずっと隣に居て感じてきたことを、にのも同じように感じてくれてたなんて。
…はぁ。
やばい、泣きそう…
「にのちゃあーん!まぁくーん!」
目頭がじんと熱くなってきたのと同時に前方から盛大なコールがこだました。
二人して顔を向ければ、パンダに跨ったままハッとしたような顔で両手で口を覆う優太。
言いつけを思い出したらしく、あわあわとパンダから降りてこちらに駆けてきて。
「まぁくんっ!ごめんなさいっ!」
「しーっ!分かったから!いいからっ…」
「相葉さんヤバい、行こう」
ちらほら居た周囲の一般客から注目を浴び、優太を抱きかかえて逃げるようにその場を後にした。