煩悩ラプソディ
第32章 あいつがライバル/AN
それから特に声を掛けられたりする訳でもなくて。
狭い園内だから心配したけど、なんとかやり過ごせたとホッと胸を撫で下ろした。
優太が乗れるアトラクションはほぼ制覇したから、そろそろ昼飯にしようかと提案しようとした矢先。
「ねぇこれなにー?」
俺の手を解いて優太が指差したのは、いかにもと言った雰囲気のお化け屋敷で。
「優太これはやめときな。おばけ出てくるよ」
『ほら、いこ』と再び手を差し出して歩きだそうとすると。
「これのる!おばけいこっ」
言いながら、ぐいぐい俺とにのの手を引っ張りだした優太。
これにはさすがににのも顔を顰めて、優太に制止をかける。
「ちょっと待って優太、これはやめよう」
「え?なんでー?」
「怖いから」
「にのちゃんこわいの?ゆうたがまもるよ?」
「ふふっ、ん~いやね…」
キラキラした優太の眼差しを受けたにのが、助けを求めるように俺に視線を寄越す。
「…優太、ご飯にしよ?お腹空いたろ?」
「やだ、おばけいく」
「ん〜…じゃほら、まぁくんと行ってきな?
にのちゃんは待ってるから」
「おいこら」
「やだ、にのちゃんもいっしょいく!」
「…よし分かった!行こう!ほら、にのちゃん」
「お前ふざけんなって!」
あからさまに嫌がるにのを優太と引っ張り、回数券を受付に渡して暗闇に足を進めた。
室内はザ・お化け屋敷なムードが漂い、おどろおどろしいBGMと薄暗さが一層怖さを演出させていて。
こんなの子ども騙しだって分かってるけど、進路の先に何があるか分からない恐怖は大人でも拭えない。
優太はすでに暗闇に怖がっているようで、俺の手をぎゅっと握り締めて離さないでいる。
「…こわい」
「だろ?だからやめようって言ったのに」
そんなに広くない通路は、横並びに三人歩くにはちょっと狭くて。
必然的に先頭を歩くハメになった俺の耳に、一番後ろからついてくるにののか細い声が届いた。
「びっくり系ヤなんだよなぁ…」
そんなことを言いつつ、所々現れる日本人形やらに宣言通りいちいち反応してて。
「ちょ、相葉さん待って…」
そう小さく聞こえた後、ふいに左手を掴まれて思わず声を上げた。