煩悩ラプソディ
第32章 あいつがライバル/AN
ガチガチに強張ってたせいで体力を消耗したのか、さすがの優太も昼飯タイムに素直に頷いて。
フードコートでホットドッグとたこ焼きを選んだ優太は、さっきとは打って変わって上機嫌になり。
人目から避ける為に、少し高い場所にある屋上の休憩スペースへ移動することにした。
今日は天気も良くて、絶好の遊園地日和。
見晴らしの良いここからは、東京のシンボルも間近に見ることができて。
そこそこ広いスペースにベンチが数脚。
十分に走り回れるここは、元気のいい子どもにはもってこいだ。
優太がはしゃぎだす前にベンチに三人で腰掛けて、買ってきた軽食にパクつく。
大口を開けてホットドッグにかぶり付く優太は、本当に小さい頃の俺を見てるみたい。
って、俺は客観的に自分を見れるわけじゃないけど。
きっとこんな感じだったんだろうなって、こうして大人になるとやけに感慨深くなるもんなんだな。
「んふっ、相葉さんみたい」
「…え?」
「優太。やっぱ似てんね」
同じようにホットドッグを食べながら、にのが優太を見て微笑む。
その眼差しがすごくすごく、優しくて。
にのにこんな表情をさせることの出来る優太に悔しさが募る反面羨ましくもあり。
顔を上げた優太の口元を拭ってやったり、たこ焼きを爪楊枝で刺してあげたりしてるにのは、まるで優太の恋人みたいで。
随所で浮かんでくるマイナスイメージを何とか打ち消しながらここまで凌いできたけど。
やっぱり俺、耐えられないみたい。
そんな慈しむような愛おしいような目で優太のこと見るなよ。
俺にはそんな眼差し…
向けてくれたことないじゃん。
一番近くに居るのに。
いつだって傍に居るのに。
ずっとずっと、一緒に居るのに。
「…どしたの?食わないの?」
またぼんやり物思いに耽ってしまってて、口を動かすのを忘れていた。
にのから指摘されて顔を向ければ、そこにはいつも俺を見るにのの瞳。
優太とは違う、俺に向けられる眼差し。
「…ううん。いや天気良いからさぁ…ちょー気持ち良くない?なんかぼーっとしちゃった」
「たまにはね、いいよ。こうゆうの」
そう言いながら俺に笑いかけてくるにの。
まだ何も伝えてなんかないのに、もうその笑顔が答えのような気がして。