煩悩ラプソディ
第32章 あいつがライバル/AN
多くを望んだって、今以上の関係になったって。
俺たちの何が変わるっていうんだろう。
それより、今までにのと積み上げてきた歴史の方が大切なんじゃないか。
だから…俺のにのへの想いはこの辺で塞き止めておかなきゃいけない。
溢れかえって氾濫する前に、涸らしておいたほうがいいんだ。
…そのほうが絶対いいに決まってる。
隣の優太がぴょんとベンチから飛び降りた気配がして、また我に返る。
タタタっと駆けて行った先には、小さな神社のような小屋があって。
「あ、またどっか行っちゃう」
言いながら重い腰を上げたにのが、俺を振り向いて『早く』と言うから慌てて立ち上がった。
屋上の一角に佇むその小屋には、"縁結びの神"と書かれてあって。
なんというタイミングだろう。
今しがたにのへの想いを断ち切ろうとしてたのに、こんな魅力満点な神社が目の前に現れるなんて。
これは…神様のお告げ?
やっぱり突き進めって言ってくれてんの?
「ねーまぁくんこれなにー?」
「ん?ここはね、縁結びの神様がいるんだって」
「えんむすび?」
「そう、好きな人と恋が実りますようにって神様にお願いするの」
「すきなひと…」
ぽつり呟いた優太は案の定にのを見上げて。
「ゆうたおねがいする!にのちゃんおねがいする!」
ニッコニコの笑顔を向けられて、にのも優太にニッコリと返す。
「…じゃあみんなでお願いしよっか」
そんなにのと優太の間に入り、三人並んで神社に向かって手を合わせた。
神様…
すぐくよくよする俺を見捨てないでくれてありがとうございます。
もう…迷いませんから。
にのに、俺の想いが届きますように。
そして…
これからもずっと、傍に居られますように。
しんと静まり返った空気を破ったのは、優太の明るい第一声だった。
「にのちゃん、おねがいは?」
俺の横から期待に満ちた顔を覗かせてそう問い掛けると。
「ん?えっとね、まぁくんのバカが治りますようにって」
「おい!」
「えーなにそれぇー!」
残念そうな優太と俺の突っ込みに笑いだすにの。
こうゆう他愛もないにのとのやり取りが、堪らなく好きだったりする。
やっぱり俺は…
にのじゃないとダメなんだ。