煩悩ラプソディ
第32章 あいつがライバル/AN
逃げるように遊園地を後にした俺たち。
急なことで状況を掴めていない優太は、まだ遊びたいとにのの腕の中で号泣しだして。
それがパーキングへ向かう間中続いたもんだから、すれ違う人たちの視線を潜り抜けるのにも一苦労だった。
泣きじゃくる優太をチャイルドシートに乗せようとしても、ジタバタして手の施しようがなく。
とりあえず人目を避ける為に車に乗り込むと、にのも優太を抱っこしたまま後部座席にするりと乗り込んだ。
車内はまるで小さい怪獣が暴れているかのような騒がしさで。
にのもあたふたしながら背中を撫でて宥めてるけど、泣き喚く優太にはちっとも響いてないみたい。
可哀想なことしちゃったよなぁ…
これは俺らの職業たる所以だから仕方ないけど。
優太にはそんなの関係ないもんな。
大好きなにのとまだ遊びたかっただろうに…
こんな状態で車を発進することなんて出来ず、後部座席に身を乗り出して優太に声を掛ける。
「優太ごめん、もうあそこには居られな…」
「やだぁっ!うえぇーん!」
にのに抱き着いていた優太は、俺が話し掛けたことでぐるんとお腹を見せて仔犬のように仰け反った。
にのの膝の上で更にジタバタもがくその姿に、やるせ無さが募って仕方ない。
にのを見れば、困ったような呆れたような顔で優太を見つめてて。
俯いた先の尖らせた口元から小さくはぁと溜息を溢す。
「…優太」
「うわぁーん!やだぁー!」
「優太?」
「やだぁー!あそぶーっ!」
「優太聞いて、にのちゃんち来る?」
「やだぁーっ!や…」
「来る?」
にのがそう優しく語り掛けた途端、目下の優太はピタッと動きを止めてにのを見上げた。
「…来る?行きたい?」
「……ぅん」
「じゃあもう遊園地はおしまい。いい?」
「…うん」
「ふふっ…だって、相葉さん」
一連の流れを見ていた俺へ向けたにのの瞳がどこか得意気に細められ。
未だ大号泣の余韻が残る優太を抱え直し、背中をポンポンと摩りながら口パクで『いいよ』と俺に言うから。
多分車を出して"いいよ"の合図なんだろうけど、家に来て"いいよ"に勝手に解釈してみたりして。
急に実感しだした胸の高鳴りを誤魔化すように、パーキングから車を発進させた。