煩悩ラプソディ
第32章 あいつがライバル/AN
泣き疲れて眠ってしまった優太をバックミラー越しに覗き見てから、隣で同じように寝息を立てるにのにチラリ視線を移す。
あの後、さっきまでの怪獣っぷりが嘘のように落ち着いた優太。
路肩に停まりチャイルドシートに乗せ換えると、当たり前のように助手席に移動してきたにのに良からぬ期待をしてしまって。
別に俺の隣がいいからとかそんなんじゃ…
いやでも…
なんて一人意味もなくドキドキしてたのに、何てこと無い会話をしていく内ににのからの返事がワンテンポ遅くなり。
運転しながらチラリ目を遣れば、窓の方に頭を預けて完全に寝入っていた。
深く被ったキャップの鍔から覗いた無防備な横顔。
真っ白な頬と小さく開いた可愛らしい口。
松潤がよく『にのの顔の輪郭が好き』って言ってるけど、俺だって相当好きだかんな。
目も鼻も口も全部。
つぅかにの全部。
運転しててじっくり横顔を鑑賞できないこの現状が悔やまれる。
にのも寝てしまったから更にステレオのボリュームを下げようとした時、丁度のタイミングで流れてきた曲。
かなり前になるけど、にのの主演ドラマの主題歌になったこの曲。
色んな曲をランダムにかけてたのに、なんていい子なんだ俺のカーステは。
思わず小さい声で口ずさむ。
曲を聴いてると、そのドラマのワンシーンが脳裏に浮かんできて。
メンバーが出てる番組は大体観るようにしてるけど、にのは特別だから。
どんなにのだって見逃したくはないし、知っていたい。
昔からずっと一緒に居るって言っても、まだ俺の知らないにのがそこに居るかもしれないから。
いつだって俺が…
にのを一番分かっていたいんだ。
なんて、おこがましくも思い続けてる俺って我ながらほんとに一途だよな。
「…ぁ、また唄っちゃった」
にのの高めの歌声が好きで、つい被せて唄ってしまう後半のソロフレーズ。
確か撮影の時も唄っちゃってやり直したっけ。
こんなの端から見たらどうでもいい些細な事なんだけど、そのくらいにのが俺の中で多くを占めてるって実感する瞬間でもあるんだ。
ふふっと一人微笑んだ時、ふいにスマホの軽快な着信音が静かな車内に響いた。