煩悩ラプソディ
第32章 あいつがライバル/AN
隣と後ろで寝息を立てる二人を起こさないように、すぐに車を停めてスマホを手に取る。
『あ、もしもし?もう遊園地着いてるのよね?』
電話越しに聞こえてきたのは優太の母親である従姉の声。
「いやそれがさぁ…もう帰ってんの」
『えっそうなの?何で?』
「俺らのことバレちゃってさぁ…ごめん」
『あぁ…そうなのね。いやしょうがないわよ。
楽しんだんでしょ?優太』
「うん、そりゃあもう」
カチカチとハザードランプの音がこだまする車内で、相変わらず気持ち良さそうに寝息を立てる二人を交互に見遣る。
『なら良かった。でね、あのー…急なんだけどね…』
「ん?何?」
『今日…一晩預かってくれない?優太』
「っ、えっ!?」
遠慮がちではあったもののハッキリと内容を伝えてきたその声に、思わず驚きの声を上げてしまい。
隣のにのが小さく身動いだのを感じて慌てて小声で訊き返した。
「今日って…今日?えっなんで?」
『それがね、ちょっとお義父さんの具合が良くなくって…様子見に行きたいのよ。だからそのまま優太を見てくれてたら凄く助かるんだけど…』
「えぇ…?いやそんなこと急に言われてもさぁ…」
これからにのんちに行くのは確定してるけど、リミットがあるから大丈夫だと思ってたのに。
あの優太のことだから"帰りたくない"とか言ってまた駄々をこねるに決まってる。
でも"優太は自分の家に帰るんだよ"って諭せば諦めると思ってたから。
だけど…
にのとバイバイして俺んちに帰るなんて事になったら、あの怪獣優太が素直に頷くはずがない。
また泣いて喚いてって、それこそ地獄じゃん…!
「いやさすがに今日の今日は…」
『ね、お願い!あ、もうすぐ出ないといけないから』
「えぇっ!?ちょ、待ってよ!」
『ほんっとごめんね!助かる!明日なるべく早く迎えに行くから!』
「いやちょっと待っ…!」
一方的に決められて一方的に切られた通話に、ただ茫然とスマホを見つめるしかなく。
…これ絶対最初っからそのつもりだったよな。
くっそ、またやられたっ!
思えば前回も強制的に優太を預けられたんだった。
同じ罠に二度も引っ掛かるなんて…
ほんと何やってんだ俺。