煩悩ラプソディ
第32章 あいつがライバル/AN
甲高い声を上げてリビング中を駆け回る優太を視界の端に捉えつつ、ぎこちなさの残る体をそっとソファに沈めた。
久し振りに訪れたにのの家。
もう年単位で来てなかったんじゃないかってくらい、ここ数年はお互いの家を行き来していなかった。
それは単なる、俺の勝手な自分への戒めであって。
日に日に増していくにのへの"特別"な感情。
それが膨らみそうになるのを堪えるのに必死で、悩んで悩んで悩み抜いた末に辿り着いた答え。
にのとは…
メンバー以上の関わりを持たないほうがいい。
あくまで仕事上の仲間、良き理解者としての位置付けに留めておこうって。
そうでもしないと、ほっといたら自分が何をしでかすか分からなかったから。
いつこの想いが溢れて爆発してしまうか。
もしかしたら、にのを傷付けてしまうかもしれない。
それと同時に…
自分も傷付くのが怖かった。
だからもう、にのとは前みたいにプライベートで会うことなんてほとんど無かったんだ。
それなのに、今こうしてにのの家のソファで寛いでるなんて本当に信じられない。
まぁそれもこれも全て、優太のおかげなんだけど。
優太が居てくれることで俺の気持ちにも程良くセーブがかかり、にのといい距離感を保ててるような気がする。
見渡せば、前と何ら変わらないにのの部屋。
俺の知っているままで存在しているこの空間が、何だかどうしようもなく愛おしくて。
込み上げる嬉しさにつられて、ソファの回りを飽きもせずにぐるぐる回る優太を捕まえる。
すると、膝の上で楽しそうな声を上げながらジタバタもがきだした。
「きゃはは!まぁくんはなせぇ!」
「くふっ、うりゃ!」
「きゃー!」
無防備に晒された丸いお腹を擽れば、更に脚をジタバタさせ。
「うふふ!やー!たすけてー!にのちゃぁん!」
「くふふっ、にのちゃんいないもんねー!」
「きゃー!やだー!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ優太がおかしくてじゃれ合っていると、リビングのドアがカチャっと開く音がして。
「ただいまぁ…んふ、すげー楽しそうじゃん」
言いながらキャップを脱いで、手に持ったビニール袋をキッチンのカウンターに置いた。