煩悩ラプソディ
第32章 あいつがライバル/AN
ちゃぷんと湯船が波立ち、すっかり湯気の立ち昇った浴室内には優太のご機嫌な声が響く。
優太を挟んで隣り合わせに肩を並べる俺たちは、どことなくぎこちなさが漂っていて。
単なる俺の思い過ごしかもしれないけど、にのだって多少この展開に動揺してるはず。
だってさっきから一言も喋らないんだよ、にのってば。
優太の問いかけに短く答えてるだけで、時々お湯を掬っては顔を撫でたり膝を抱えた指先をじっと見つめてたり。
ちらちら覗き見てるだけだからちゃんと確認はできてないけど、耳も頬もしっかり赤く染まってて。
いつも見てるから分かる。
これはただ風呂に入って温もったから赤いんじゃない。
…ねぇにの、照れてる?
もしかして恥ずかしいの?
俺との風呂、緊張してんの?
なんて都合の良い解釈をしている俺はというと、もちろん緊張…っていうか興奮しちゃってる。
今までだってにのと風呂に入ったことなんて数知れないし、裸だって特に何事もなく見てきた。
でもここはにのんちの風呂だし、コンサート終わりなんかじゃなくて完全にプライベートって状況。
久々のにのんちで、まさか一緒に風呂に入ることになるなんて。
どんな顔してどんな風に振る舞ったらいいのか、にのも俺も探り合ってるような感じ。
「ねぇまぁくん」
ちゃぷちゃぷとお湯を跳ねさせて遊んでいた優太が、ふいに俺を見上げて口を開いた。
「かみさまにおねがいしたー?」
「…えっ?」
「おねがいなぁに?」
くるんとした円らな瞳を向けつつ訊ねられたその言葉。
一瞬、隣のにのが弾かれたように俺のほうを向いたのが分かった。
えっ…なに!?
なにそのリアクション!
「ねぇなに?まぁくんのおねがい」
「へっ?あ、いやそれはさ…」
「優太お願いはね、人に言ったら叶わないんだよ」
ふと隣から助け船を出すようなにのの言葉が漏れて。
「えーそうなの?」
「そうなの。だから聞かないの」
「ふぅん」
俺の願い事を知ってか知らずか、どちらにせよそれを叶えさせようとしてくれているにの。
さっきのリアクションも気になるし…
やっぱり俺のこと…って、どうしても思っちゃうよ。
ねぇにの。
…今日だけでも、そう思わせてくれない?