煩悩ラプソディ
第32章 あいつがライバル/AN
無駄にどきどきして逆上せそうになった頭と体。
持ってる中でも少し大きめと言って渡されたスウェットに袖を通すと、ほのかににのの匂いがして胸がきゅっとした。
パンツ一枚ではしゃぎ回る優太を捕獲し、わしゃわしゃとタオルで髪を拭いてやり。
にのへとパスすれば、ちゃっかり用意されていたパジャマを広げて待ち構える腕の中へとダイブする。
「こら、着れないって」
「きゃはは!にのちゃーん!」
ほっかほかのしっとりした体を受け止め、困ったような嬉しそうな顔を向けるにのは。
さっきと同じように頬を赤く染め、洗い立ての髪を揺らしながら目を細めてて。
そんなにのの表情にきゅんとする反面、やっぱり優太を見る眼差しにはヤキモチを妬いてしまう。
今日はにのの振る舞いに完全に振り回されてんな、俺。
…じゃなくて。
俺が勝手に期待して勘違いしたり、勝手にヤキモチ妬いて落ち込んだりしてるだけか。
未だわちゃわちゃと戯れながら服を着せてもらっている優太に、また大人げなく対抗心を燃やしてみたりして。
優太のおかげでここに居れてるのは重々承知だけど。
…それとこれとは別モンだからなっ。
遮光カーテンから差し込む陽がすっかりオレンジに変わり、シンプルな壁掛け時計の針も夕飯準備に丁度良い時間を示していて。
ほっこりした体のまま少し寛ぎたいとこだけど、早いとこ準備しないと優太が腹を空かせてまた怪獣化するかもしれないから。
「優太、カレー作るよ」
「うんっ!」
満面の笑みで答えた優太を引き連れて、久し振りににのんちのキッチンへと足を踏み入れた。
***
リビングのローテーブルに食材を並べれば、優太がわくわくした瞳でそれらを眺める。
冷蔵庫から買ってきた野菜や肉を出していた時、ふいに『ゆうたがする!』と言って手元の野菜を奪われて。
キッチン台の上に手探りでそろりと玉ねぎを置くその後ろ姿に、つい笑みが零れてしまい。
優太も一緒に手伝えるようにと、リビングで下ごしらえをすることになった。