煩悩ラプソディ
第32章 あいつがライバル/AN
さすがに優太に包丁を握らせることは出来ないからと、玉ねぎの皮むき係を任命したら。
隣でじゃがいもの皮をピーラーで剥いていたにのに、ずいっと玉ねぎを差し出して。
「ねぇにのちゃん、できない」
って甘えた声でにのを見上げる優太。
それにふふっと笑いつつ、優太の後ろに回り込んで一緒に玉ねぎを剥きだすにの。
「こうやって…ほら、できたろ?」
「わぁできたあ!すごいにのちゃん!」
なんてお花畑な会話を聞きながら、俺はにんじんにトンッと包丁を入れる。
この調子だとカレーが出来上がる頃には完全敗北の臭いがプンプンするんだけど。
端から見たら微笑ましい光景だとしても、俺にとっては苦痛以外の何者でもなくて。
斜め横でくっついて作業をする二人を出来るだけ見ないように、無心でにんじんを乱切りにしていた矢先。
「あっにんじん…」
ふいに優太が小さな声を上げて。
目を遣れば、重ねられたにのの手の下で玉ねぎを持つ優太の小さな手にぎゅっと力が入ったのが見てとれた。
「ん?にんじん嫌いなの?」
「うん…」
にのが後ろから優太の顔を覗き込みながら問い掛ける。
「…にんじんいや」
しゅんと小さくなった優太は、さっきまでのテンションがすっかり無くなってしまってて。
どうしたもんかと包丁を握ったまま様子を窺っていると、沈黙を破るようににのがぽつりと口を開いた。
「…俺はにんじん好きだけどなぁ」
その言葉に俯いていた優太がパッとにのを見上げ。
「すき?」
「うん、好き。優太は嫌いなんだ?」
「…」
「相葉さんも好きだよね?」
急に振られてどきっとしたけど、ただ素直に『うん』としか言えずに。
「だって。まぁくんも好きだってよ?」
「……」
「…にんじん食べれるまぁくんってかっこいいなぁ」
「…!」
そう発したにのの言葉に、優太が漫画みたいにガーンって顔をして。
「ゆっ、ゆうたもたべるもん…」
「えっ、そうなの?」
「たべるもん!」
泣きそうになりながらそう言い放った優太が、にのから離れ俺の傍に来たから何かと思ったら。
"にんじんちいさくして"
ってそっと耳打ちされて。
あんなに対抗心を燃やしていたはずなのに、無性に愛おしくなってその小さな体をぎゅっと抱き締めた。