煩悩ラプソディ
第33章 お熱いのがお好き/AN
「…ねぇ」
小さく届いたその声。
同時に、ギシっと背後が沈み距離を詰められる気配。
その問いかけには応じずに、きゅっと背中を丸めて。
いっそのことまた寝入ってくれないかな、なんて都合の良いことを念じてみたりして。
「ねぇ…」
けれどその念も虚しく、そっと肩に触れられゆっくり振り向かされる。
観念して恥ずかしさでどうしようもなく赤くなった顔を恐る恐る向ければ、暗闇に浮かぶ煌めいた二つの瞳。
至近距離なんだろうけどイマイチ距離感が掴めず、押し黙ったままじっとその瞳を見つめていると。
「…寂しかった?」
ふいにそう発した声色が物凄く優しくて、思わずきゅんと胸が締め付けられて。
「…ごめんね」
「…っ」
言いながら流れた前髪を掬うように撫でてくる相葉さんに、堪らなくなって擦り寄った。
完全に俺の扱いを心得ている相葉さん。
それにすんなりとハマっている自分自身に若干悔しさが募る反面。
埋めた首元は温かくて、回された腕に収まるこの安定感がとてつもなく愛おしい。
「…俺もね、ちょー寂しかった。
もうさ、にのが足りなくて我慢できなくて」
「ん…」
「来てみたら居ないんだもん。
今日遅かったの?」
「んん…飲み行ってた」
「えー?俺が来てんのに?」
「ふふっ…知らないよそんなの」
ぎゅっと抱き締められたまま、おでこから伝わってくる相葉さんのくぐもった声。
「はー…落ち着く…」
そう言って吐き出された吐息に、色んな感情が含まれてる様な気がしてそっと身動いだ。
見上げたそこには、安心しきって緩んだ相葉雅紀の顔があって。
その締りのない顔につられて自然と口角があがってしまう。
「…なに」
「…ううん」
「ね、にの…」
ほんの一瞬の間にスッと纏う空気を変えたその声色の後。
肩を竦めながら寄せてきた唇を察し、迎えるように自分のを重ねた。
ちゅっと音を立てて一度離れようとしたそれを追いかけて更に深く口付ける。
ずっと宿っていた熱は消えることなく、また体の奥で沸々と再燃し始めたようで。