煩悩ラプソディ
第34章 君の瞳に恋してる/AN
最寄駅から降り、薄暗くなったいつもの帰り道を歩く。
スマホから伸びたイヤホンからは、小気味の良いテンポと可愛らしい歌声が鼓膜を響かせる。
最近はライブで聴いた二宮くんのデビュー曲をずっとリピートしていて。
この曲を聴く度、可愛らしいダンスとキラキラの笑顔が思い出されてつい何度も聴いてしまうんだ。
気を抜いたらニヤけてしまう頬はすっかり自覚済み。
ボストンのスクールバッグをリュックみたいに背負って、鼻歌交じりに何気なくコンビニの前を通り過ぎようとした時。
視界の隅に何かが映った。
はたと立ち止り歩道に面した大きなガラス窓を見ると。
にっ、二宮くんっ…!?
と思わず息を呑んだけど、すぐふっと肩の力を抜いた。
雑誌コーナーに居たのは、限りなく二宮くんによく似た少年。
顔も背格好もまるで二宮くんそっくりなその子は、こちらに気付くことなく下を向いて雑誌を眺めている。
一瞬マジで二宮くんが居るって思ったけど、まさかこんなとこに居るワケないし。
二宮くんがコンビニで立ち読みしてるワケないしな、うん。
つーかそもそもあの子にはオーラのかけらも無い。
本物の二宮くんはそれはもうキラキラしてんだから。
しかもよく見たらなんかダセーし。
キャップにチェックシャツにリュックって…
塾帰りの中学生かもな。
おっと、見ず知らずの少年をこれ以上イジるのは良くない。
ちょっと腹減ったし…肉まんでも食うか。
ピロピロと軽い音を響かせて入店し、チラリと一度雑誌コーナーに目を遣る。
その佇まいは、やっぱり二宮くんにそっくりで。
だけど見るからに塾帰りの中学生感が否めない。
違う違う、あれは絶対二宮くんじゃない。
そう自分に言い聞かせるけど、なんか気になって目を遣ってしまう。
…この際近付いて確かめてみるか。
レジで肉まんを買って雑誌コーナーに足を向ける。
その少年の隣にそっと近付くと、適当に雑誌を取って開いた。