煩悩ラプソディ
第34章 君の瞳に恋してる/AN
そろりと左に視線を寄越せば、キャップで翳る真っ白な頬。
ぱちぱちと瞬きをする度に落ちる睫毛も、少し尖った薄い唇も、数少ない写真で見た二宮くんそのもので。
その事実に言い知れないドキドキが湧き上がってくる。
こんなとこに居るワケがないし、オーラも全くないんだからきっと別人。
だけど、それでもこんなに二宮くんに似てる少年が居るなんて。
しかも偶然出会えるなんてめちゃラッキーじゃん。
朝飛び込んできたニュースもあって、今日はほんとにいい一日だったって思ってたとこに。
最後にこんなプチラッキーが乗っかるなんてほんとツイてんな、俺。
また勝手に緩みそうになる頬を何とか堪えパラっとページを捲ると、ふいに隣のその少年が弾かれたように俺を見たのが分かった。
…え、なに?
もしかしてずっと見てんのバレた…?
今度はさっきとは違うドキドキが湧き上がり、隣を見ないように何食わぬ顔で雑誌を読んでいると。
「…ぁの、ありがとうございます…」
ぽつり聞こえた小さなその言葉に、ワンテンポ遅れて隣を見遣った。
っ…!!
正面から見たその少年は、本物の二宮くんみたいな薄茶色の瞳で俺を見上げてて。
照れ臭そうにほんのり頬を染め、水分をたっぷり含んだ瞳でじっと見つめられ。
その吸いこまれそうな瞳に何も言えないでいると、少年は焦って言葉を続けた。
「ぁ、それ…俺の曲、聴いてくれてるんですよね…」
そう言って、垂れ下がった左耳のイヤホンに視線を向ける。
そういえばさっきレジで左耳だけ外してそのままにしてたっけ。
そこから微かに漏れてくるのは、いま右耳で聴いている二宮くんのデビュー曲。
…え、ちょっと待って。
待って待って…
うっそマジでぇっ!?
驚き過ぎて思わず手の平で口を覆ってしまい。
ついでに目の前がチカチカして目眩がしそう。
「だ、大丈夫ですか…?」
そんな俺に更に焦って声をかける少年、いや…
二宮くんっ!?