煩悩ラプソディ
第34章 君の瞳に恋してる/AN
迎えた二宮くんが来るイベント当日。
12時からの出演と聞いて、開店と同時に並ばなきゃと意気込んだものの。
まだイベントブースすら設営されてなくて、肩透かしをくらってしまって。
「ほら〜だから言ったじゃん、早過ぎだって」
「っ、いいの!こうゆうのは気持ちが大事なんだから」
隣で不服そうな松潤を宥めつつ、まだ何もないイベントブースをぐるりと見渡した。
いくら落ち込むことがあっても、一晩寝たら翌朝は忘れてしまうのが俺の長所。
あの日ぐるぐる考えて沈んだ気持ちはすっかり元通りで、二宮くんを密かに応援し続ける日々を送っていた。
しかもちゃんと松潤の言いつけは守ってきたつもり。
二宮くんのプライベートには関わらないようにしようって決めて、例のコンビニも敢えて素通りして。
だけどやっぱり心のどっかで二宮くんを探してる自分が居て、毎日コンビニを通る度にチラリと視線を向けてしまう。
そしたらあれ以来一度だけ二宮くんを見かけたんだ。
ちょうど二宮くんが店から出てくる寸前で気付いて、慌ててくるりと来た道を戻ったんだけど。
二宮くんは反対の方へ歩いていってしまって、その後ろ姿を見ただけで胸がいっぱいになった。
そうやって"俺はアイドルの二宮くんを応援してるんだから"と何度も言い聞かせながら、必死にこれまで我慢してきたんだ。
だけど今日は。
今日は堂々と真正面から二宮くんを応援できる。
それに…ちょっとした秘策もあるんだよね。
怠そうにベンチに座っている松潤を覗き見て、ポケットに手を忍ばせてそれを確認する。
実は今日の為に、二宮くんへファンレターを書いて持ってきた。
応援してます、頑張ってくださいって俺のありったけの想いを込めて。
そして文章の終わりに…これは賭けに近いけど。
『またいつかあのコンビニで会えたら嬉しいです』って書いたんだ。
こうなると完全に松潤の言いつけに反することになるけど、あくまでこれは俺を覚えてもらう為のアピールであって。
こっちからは近付かない代わりに、二宮くんに俺という存在を認識してもらいたい。
気持ち悪がられる可能性があるのは十分わかってる。
けど…やっぱり俺は、あの日の二宮くんは本当の二宮くんだと思うから。
あの笑顔に表も裏も無いはずだって。