煩悩ラプソディ
第34章 君の瞳に恋してる/AN
少しずつ列が前に移動する度に、まるで和太鼓のように心臓がドンドンと身体中に響き渡る。
まさか最後に握手会があるなんて知らなくて。
松潤からはイベントの場所と時間しか教えられてなかったから。
握手会だなんて二宮くんに近付ける絶好のチャンスじゃん。
ポケットから出したファンレターを手に、女の子達に混ざって順番を待つ。
周囲より頭二つ分くらい出てるから、前方の二宮くんの様子もずっと見てられる。
相変わらずキラキラの笑顔で、一人ひとり丁寧に握手をしていて。
そんな健気な姿に、自分の番はまだだと言うのに既に胸がいっぱい。
っていやいや、のん気に浸ってるヒマはなかった。
二宮くんになんて言おうか。
『いつも二宮くんの曲聴いてます』
『雑誌もチェックしてます』
『待受にして毎日見てます』
…いやさすがにこれは怖いかな。
とにかく『応援してます』って伝えたい。
そしてファンレターを渡して…
ぐるぐると頭の中でシミュレーションをしてたら、もう順番が次に迫っていて。
我に返ったのも束の間、前の人が終わってすぐ目の前に二宮くんが現れた。
「ありがとうございます」
にこっと可愛らしく微笑みながら、小さな両手を差し出してくる。
ドキドキしながらその手をぎゅっと握れば、あのコンビニでの感触が蘇ってきて。
丸っこくてしっとりした二宮くんの手。
俺のゴツゴツの手で握っちゃって大丈夫かなってくらい、女の子みたいに柔らかい。
ずっと握っていたいけど、今日はどうしてもやらなきゃいけないことがあるから。
「ぁ…えっと、いつも応援してますっ!
それと、あの、これ…」
惜しみつつ手を離し、脇に挟んでいたファンレターを恐る恐る差し出せば。
「わ…ありがとうございます」
薄茶色のうるうるの瞳を輝かせながら嬉しそうに受け取ってくれて。
そしてふいに萌え袖から出た両方の人差し指で、耳を押さえる仕草をした。
えっ…?
何のことだろうと思っていると、時間が来て係の人に促され二宮くんの前から退かされてしまい。
至近距離での笑顔や手の感触に浸るより先に、最後のあの仕草が頭から離れなくて。
思考を巡らせながらベンチで待つ松潤の元へ戻った。