煩悩ラプソディ
第34章 君の瞳に恋してる/AN
心地良い揺れと音楽のせいで、完全に寝過ごしてしまった。
いつもより帰りが遅くなってしまい、駅の階段を降りながら急いで母ちゃんにメールを入れる。
足早に通り過ぎるのが日課になったコンビニの手前で、ふとレジに並ぶ後ろ姿に見覚えが。
「っ…!」
…こんな日に限って二宮くんを見つけてしまうなんて。
そのいつもと変わらない可愛らしい姿に、一気に心臓が高鳴ってくる。
早く帰らないといけないし、その前に二宮くんには会っちゃいけないんだから。
心ではそう思っていても、立ち止まってしまった足は一歩も動こうとしなくて。
ドキドキと早鐘を打つ心音が鼓膜に響き、自動ドアから出てくる二宮くんがスローモーションみたいに見える。
キャップを被った横顔がこちらに向いてゆっくりと歩き出した瞬間、囚われていた俺の体が我に返ったように自由になった。
引き返さなきゃいけないのに、その足は自然と前に一歩を踏み出していて。
俺の気配に気付いて顔を上げた二宮くんが、ハッとして立ち止まる。
そしてその顔が一瞬でぱぁっと輝いたのを見て、どくんと心臓が波打った。
「ぁ…この間は、ありがとうございました」
数歩進んで距離を縮めてきたその手には、今しがた買ったばかりのコンビニ袋。
服装だっていつものチェックシャツにリュック。
オーラのかけらなんてこれっぽっちも無いのに。
どうしてこんなに可愛らしい笑顔をするんだろう。
「あの…?」
「っ!あっ、いやその…」
そのあまりの可愛さについ見惚れてしまって、二宮くんに心配そうに顔を覗き込まれた。
更に縮んだ距離に心臓が悲鳴を上げるように高鳴る。
と同時に、少しでも口を開けば余計なことを口走ってしまいそうな程に昂ぶってきて。
ヤバい…どうしよう。
もう、好きが溢れちゃいそう…
「あれ?二宮じゃん」
気持ちを抑えようと押し黙っているところに、背後から複数の声が聞こえた。
「久しぶりじゃね?あ、つーかお前ほんとにアイドルになったんだって?」
振り返ればそこには、いかにもチャラチャラしてそうなヤツらが三人居て。
まるで俺なんて見えてないかの様に二宮くんに近付いてくる。