煩悩ラプソディ
第34章 君の瞳に恋してる/AN
直感的に分かった。
こいつらは二宮くんの友達なんかじゃない。
だって、明らかにからかってやろうって感じでヘラヘラしながら近付いてくるから。
二宮くんを振り向けば、俯いてジッと黙ったままで。
キャップのせいで表情までは見えないけど、右手に持ったコンビニの袋をぎゅっと握る手が微かに震えている。
「けっこー人気らしいじゃん?なぁ?
ちょっとやってみろよあの振り」
ガハハと下品に笑いながらフザケて踊るこいつらを見て、腹の中が段々とムカムカしてきて。
…なにバカにしてんだよ。
お前らなんかが二宮くんの歌唄ってんじゃねえよ!
心の中でそう呟いてキッと睨みつけてみても、相変わらずヘラヘラと揶揄いの眼差しは止まなくて。
そればかりか、こいつらの眼中には俺は全く入っていない様子。
だけど耐えるように俯いてジッとしている二宮くんをこれ以上見てられない。
そう思ってヤツらに振り返り口を開いた時。
「ゃ、約束…あるからっ…」
絞り出すように発せられた二宮くんの小さな声。
「行こっ…!」
「っ、えっ!」
同時に掴まれた腕に驚く間も無く、ぐいっと引っ張られてヤツらの間をすり抜けた。
突然のことに何が起こっているのか分からずに、ただ二宮くんに掴まれている腕だけがじんわり熱くて。
『なんだよ芸能人気取りかよ!』って捨て台詞を背に受けながら、ぐいぐい引っ張られるまま着いていくだけ。
ついさっき降りたばかりの駅を通り過ぎ、静かな住宅街に入ったところでようやく二宮くんの歩くスピードが遅くなった。
掴まれていた腕は歩く内に手首に下り、ぎゅっと込められていた力も少し弱まって。
暫くして立ち止まった二宮くんが、ゆっくりとこちらを振り向く。
っ…!
その瞳には涙の膜が張られ、悲しそうにうるうると揺れていて。
そんな二宮くんの切なげな表情に、驚きで忘れかけていた胸の高鳴りが一気に押し寄せてくる。
「…ごめんなさい」
「…ぇ、あ…」
「ごめんなさい、急にこんな…」
「いやっ、あの…さっきのって…」
そう口にしてから慌てて続きを飲み込んだ。
この質問はしちゃいけない。
こんな悲しそうな二宮くんを前に、今さっきの出来事もアイツらとの関係性も聞かなくったって分かる。