煩悩ラプソディ
第34章 君の瞳に恋してる/AN
「っ、じゃなくて!えっと…」
我ながらごまかすの下手くそだなと思いながらも、懸命に別の話題を探す頭の中は案の定ごちゃごちゃで。
「あー…えっと、あ!この間のこれ…って」
パッと脳裏に浮かんできたのは先日の握手会でのあのジェスチャー。
本当にあれは俺を認識してくれてのことだったのか、実はまだ自信がなかったんだ。
期待を込めた眼差しで耳に指を当ててみれば、それを見た二宮くんの瞳が何故かよりうるうるしだして。
えっ…!?
そして涙が溢れようとした寸前、両手でごしごしと目を擦る仕草をした二宮くん。
その姿が何とも言えず可愛くて今日何度目かのキュンが来た。
ってときめいてる場合じゃなくてなんで泣いてんの!?
「ちょっ、二宮くん…だいじょ、」
「なんでもないっ…平気です…」
「いやでも…」
「大丈夫ですからっ…!」
しんと静まり返った住宅街に響いた声に、その華奢な肩に触れようとした手を思わず引っ込める。
「あの…勝手なことしてほんとにごめんなさい。
今日のことは…誰にも言わないでもらえますか?」
「ぇ、あぁ…はい、もちろん…」
たじろぎつつ答えた俺の言葉に安心したのか、赤く潤んだ瞳でそっと微笑んで。
リュックのショルダーベルトを握り締め、ぺこっとお辞儀をして立ち去ろうとしたから慌てて口を開いた。
「あのっ!俺、これからもずっと応援してます!」
咄嗟に出た言葉は明らかにボリュームを間違ってしまったけど。
立ち止まった瞳がまっすぐに俺を見てくれてるから。
「だからもし…もし、二宮くんが困ってたら、俺っ…いつでも力になりますっ!」
今の俺に言える精一杯の気持ち。
もう二度と、今日みたいな悲しい顔を二宮くんにさせたくないから。
俺が…
守ってあげたい。
ぎゅっと拳に力が入ったまま佇む俺に、今日出会った時と同じ可愛い笑顔を向けてくれて。
そして。
「…ありがとうございます、相葉さん」
「…っ、えっ?」
「じゃあまた」
ぺこっとお辞儀をし、コンビニ袋を揺らしつつ小走りしていく後ろ姿。
ぼんやりとそれを見送りながら、今の二宮くんの声がこだまする。
"相葉さん"
うそ…
二宮くんが…俺の名前を…
えぇぇぇぇっ!?