煩悩ラプソディ
第34章 君の瞳に恋してる/AN
「…でさ、って…相葉くん聞いてる?」
「ふぇっ?あっ、ごめ…」
「…ダメだわこりゃ」
隣を歩く松潤に思いっきり溜息を吐かれ、取りつく島も無くなる。
「最近輪をかけて使いモンになんないね、君」
「っ、そんな言い方しなくてもいいじゃん…」
冷めた視線を送ってくる松潤に心ばかりの反抗。
だけど松潤の言う通り、ほんとに最近の俺はふわふわして仕方ないんだ。
それもこれも、あの日二宮くんから突然名前を呼ばれてしまったから。
きっとファンレターにフルネームを書いてたからだと思うけど、だけどさ。
それを覚えてくれてたってことでしょ?
完全に俺、相葉雅紀という人間を認識してるってことだよね?
もうその事実だけで舞い上がっちゃって、二宮くんの"相葉さん"の声がずっと頭から離れなくて。
こんな状態で気持ちを抑えろなんてもちろん不可能で、それどころか日に日に想いは募っていくばかり。
昨日なんて夢にまで出てきて、俺のこと見上げながら可愛く笑いかけてくれてさ。
このままだと二宮くんへの気持ちが爆発しそう。
もう時間の問題なんじゃないかって思ってる。
その度に松潤にブレーキを掛けられるけど、最近は若干諦められてるような気もしてたり。
チラッと隣を見ると相変わらずの端整な横顔。
松潤もかなりのイケメンだけど、違うんだよな。
松潤にはキュンなんてしないもん。
やっぱり二宮くんだから。
二宮くんは特別なんだ、絶対。
「…なんすか」
「あっいや、別に!」
「いやだからね、さっきのさ…」
笑顔を貼り付けてごまかす俺に、もう一度口を開いた松潤の目線がふいに俺から外されて。
それが俺を通り越した先に向けられて振り向けば、スーッと車が近付いてきて俺たちの傍で止まった。
そしてすぐに運転席から降りてきた男は。
黒髪をセンター分けにして眼鏡を掛けた、いかにも真面目そうなスーツの人で。
そんな地味な雰囲気だけど、顔は驚くほどイケメンだった。
そのイケメンスーツが俺たちに向かって口を開く。
「相葉雅紀さん…はどちらですか?」