煩悩ラプソディ
第34章 君の瞳に恋してる/AN
連れてこられたのはオシャレなカフェ。
松潤といつも行くのは専ら安いファーストフードだから、こんな上品なカフェに居るってだけで緊張してくる。
しかも俺たち制服なんだけど。
さっきよりここに居る方が目立つんじゃないか、なんてとてもじゃないけど言えない。
改めて差し出された名刺に視線を落としていると、つむじに櫻井さんの声が届いた。
「…相葉さん、単刀直入に申し上げますが…」
隣でアイスコーヒーのストローに口をつける松潤とは裏腹に、ぎゅっと膝に拳を握ってゴクリと唾を飲み込む。
俺は一体なにを言われるんだろう…
「二宮に…これ以上関わらないで頂けますか?」
射抜くような視線とその言葉が、文字通り俺の胸にグサリと突き刺さった。
「…え?」
「二宮から聞いています。あなたに付きまとわれていると」
「えっ!?いやっ、そんなっ…」
「二宮を応援して頂いているのはありがたいのですが、過剰なアプローチはどうか控えて頂きたい」
テーブルに両手を組み神妙な面持ちの櫻井さんの言葉に、心当たりなんて全くない。
なに?どういうこと?
俺が二宮くんに付きまとってるって…?
パッと隣を見ると、ストローを咥えたまま冷ややかな流し目を松潤から向けられ。
「まっ…待ってください!俺付きまとってなんか…!」
櫻井さんに必死に訴えかけるけど、微動だにせずその表情も変わらぬままで。
「いつも…二宮とコンビニで会っているそうですね」
「っ…はい」
「他のファンの方も二宮があなたと居るところを何度か目撃しているようです。そんなことをされては非常に困ります」
「でも…俺は別に付きまとってないです!
あそこはいつも通る道でたまたま二宮くんもそこを使ってて、」
「二宮が言っていました。初めはファンとして応援してくれるのが嬉しかった、でも今はそれが負担になっていると」
「…え、」
抑揚のない無機質なトーンのその言葉が、とても二宮くんの口から発せられたものだとは考えられなくて。
嘘だ…
二宮くん、そんなこと思ってたの…?
「とにかく…二宮は今が大事な時期なんです。
相葉さんならご理解頂けると信じていますので」
そう言って深々と頭を下げた櫻井さんは、伝票を手に静かに席を立った。