煩悩ラプソディ
第34章 君の瞳に恋してる/AN
とぼとぼと音が聞こえそうに重い足取り。
そんな俺の歩調に何も言わず合わせてくれている松潤。
普段は縁の無いようなオシャレな街並みを歩いているというのに、今の俺には何の魅力も感じない。
「…なんか食ってく?」
「…ううん、俺いい」
「だよね」
一応気遣って声を掛けてくれたけど、今はとてもじゃないけど胃に何も入らないと思う。
「まぁ…相葉くんの気持ちもわかるけどさ。
まさかあんな風に言われるとは思わなかったわ」
「……」
「注意するならもうちょっとオブラートに包んでくれればいいのに」
「……」
「だから言ったじゃん俺。付きまとったらウザがられるよって」
「っ、いや待って!俺マジで付きまとってないから!」
思わず立ち止まって松潤に詰め寄れば『え、そうなの?』なんてトボけた顔して。
「そんなことするワケないじゃん…」
「ふふっ、分かってるって」
項垂れる俺の肩にポンと手を置きながらいたずらっぽく笑う。
「相葉くんこれはさ。何か裏があると思う」
「…裏?」
「うん。多分裏で強い力が働いてるね」
「ど、どういうこと…?」
いつの間にか歩調はいつもの松潤のペースで、それに着いていくように煌びやかな街並みを歩く。
「俺の予想だけどさ、二宮くんはこのこと知らないと思う」
「えっ?だって二宮くんが言ってたって…」
「嘘だろあんなの。そもそもあの櫻井ってヤツなんか胡散臭いし」
腕を組んで難しい顔をするその横顔から、さっきの櫻井さんの言葉や表情が思い出されて。
ずっと険しい顔で並べられた言葉の中には、確かに心当たりのないことも幾つかあったんだ。
連絡先を聞かれて困ってるとか、家まで付いてこられて怖かったとか。
そりゃあ連絡先を聞けたらどんなにいいかって考えたこともあったよ。
それに二宮くんの家だって俺んちから近いのかなとか気になってたし…
けどギリギリのところでいつも踏み留まってたんだ。
そんなことコソコソするくらいなら、ちゃんと気持ちを伝えようって。
アイドルの二宮くんを真っ正面から応援するように、今度は"二宮和也"に俺の想いを届けたいって。