煩悩ラプソディ
第34章 君の瞳に恋してる/AN
言い放たれた翔さんの言葉を理解してすぐ、脳裏に浮かんできたこと。
じゃあもう…あのコンビニに行けないってこと?
もう、相葉さんに会えなくなっちゃうんだ…
そっかぁ…
相葉さんに会えなくなるという現実に、ますますショックが募っていく。
だけど告げられた決定事項に反論なんてもちろん出来ず、ただ小さく首を縦に振るしかなかった。
翔さんの運転する車の後部座席。
窓の外を流れる景色は、普段あまり歩かない大通りで。
ぼんやりとそれらを眺めながら、心にぽっかり穴が開いたような気がしていた。
お仕事でのミス、学校行事に参加できない事実。
それに追い打ちを掛けるように告げられた、相葉さんに会えなくなった現実。
言ってしまえば全て自分が引き起こしたこと。
夢を叶える為に選んだ今。
だけどどうしてかな。
なんでこんなに悲しい気持ちになってるんだろう。
リュックを探り、ポーチに大事に仕舞ってある相葉さんのファンレターを取り出す。
薄暗い車内に浮かぶ文字たちに目を凝らしてみても、じわじわと滲んで全然見えなくて。
ぱちっと瞬きをすれば、ぽたりと落ちた雫。
色濃くなったそこには『応援してます』の文字。
そうだよ、こうして応援してくれるファンの人たちがたくさんいるんだから。
俺はそんなファンの人たちを笑顔にしなきゃいけないんだから。
自分が泣いてちゃダメじゃん。
しっかりしろ、二宮和也。
ぎゅっと唇を噛んで堪えようとしても、溢れてくる涙はコントロール出来なくて。
ぱたぱたと落ちる雫が、大切なファンレターに染みを作っていく。
今までの俺を支えてくれていたのは、家族や友達や翔さんで。
でも夢に近付けば近付く程、その存在はなぜか遠くなっていって。
そんな中、いつだって近くに感じられたのは他でもない相葉さんだった。
きっと相葉さんは純粋な気持ちで応援してくれているだけ。
だけど、俺にとっていつしかそれが心の拠り所になっていたんだ。
このファンレターも、あの日言ってくれた言葉も。
"困ってたら力になります"
…ねぇ相葉さん。
俺ね、今すごく困ってるの。
どうしたってこの涙が止まらないんだ。
ねぇ相葉さん、お願い。
俺を笑顔にして…