煩悩ラプソディ
第34章 君の瞳に恋してる/AN
それからは、ただがむしゃらに与えられたお仕事に取り組んだ。
あの晩は完全に打ちひしがれて、食欲も湧かずにお母さんもかなり心配してたけど。
くたくたになってしまった相葉さんのファンレターを丁寧に伸ばしながら、ゆっくりと気持ちを整理したんだ。
大丈夫。
これさえあれば、俺は頑張れるから。
二宮和也を応援してくれている人は、他にもたくさんいる。
本当はそのひとりひとりに同じように感謝しなきゃいけないんだよ。
だからいくら心の拠り所にしてたって、相葉さんは俺を支えてくれるファンのひとりでしかない。
ここに書かれてあるように、応援してくれてるって事実だけで十分じゃないか。
ちょっと親近感を覚えてしまったばっかりに、流さなくていい涙を流してしまったんだ、きっと。
会えなくたって、直接言葉を交わさなくたって。
実感できなくても、信じるしかないんだ。
だから、笑顔でいなきゃ。
俺が笑顔でいれば、相葉さんもきっと見てくれてるはず。
そう思い直したら、沈んでた気持ちは少しずつ浮いてきて。
心なしか前よりも強くなれたような気がするのは、きっと相葉さんのおかげ。
相変わらずファンレターはお守りみたいに持ってるけど、その文字を見る頻度は段々と減ってきた。
やっと自分の足で立てるようになったというか、ヒナ鳥が親元を離れ巣立っていくような感覚。
そんな前向きな気持ちで自分と向き合えるようになった頃、舞い込んできたひとつのお仕事。
「…学園祭?」
「あぁ、これからシーズンだろ。幾つかの高校から既にオファーが来てる」
レッスン終わりの車内で翔さんから告げられたお仕事の内容。
元々断る選択肢なんて俺にはないけど、これに関してはすぐにこくりと首を縦に振った。
だって、学園祭だなんて絶対楽しいに決まってるもん。
俺には経験できない、まさに学校行事の看板みたいなものだし。
お仕事だけど…ちょっとは雰囲気楽しんでもいいよね。
「どうした?やけに嬉しそうだけど」
「えっ、いや…頑張りますっ!」
ルームミラー越しに向けられた視線に、思わず背筋を伸ばして返事をした。