煩悩ラプソディ
第34章 君の瞳に恋してる/AN
「こんにちは。今日はどうもありがとうございます」
そう言いながら近寄ってきたのは、カメラを首から下げた生徒さんで。
柔らかく微笑んでくれるその顔立ちはとびきりカッコ良くて、とてもじゃないけど同じ高校生には見えない。
それにどこかで会ったことがあるような気がするけど…気のせいかな。
「生徒会広報の松本です。すみません、本番前に」
「いえっ!あ、二宮和也です。よろしくお願いします」
「こちらこそ。では早速ですけどいいですか?」
ぺこりとお辞儀をして顔を上げれば、松本さんがニッコリ笑顔で着ぐるみの方へ手を指し示す。
数体の着ぐるみの真ん中に誘導され、隣には例の大きなきりんさんが居て。
思わず見上げると、俺の視線に気付いたのかぺこりとお辞儀をしたその時。
「ぁいてっ…」
「あっ…!」
きりんの頭が降ってきてコツンとぶつかったから思わず声を上げれば、中の人も慌てたように声を出した。
「あ、二宮くん大丈夫ですかー?」
松本さんが笑いながら声を掛けてくれて、俺もそれに笑いながら返事をしたりして。
一気に和やかな雰囲気になって良かった。
着ぐるみに囲まれて写真撮影なんて初めてだから、どんな顔してたらいいかなって思ってたとこだったし。
程よく肩の力が抜けてふぅっと息を吐いたら、隣のきりんさんがまだ申し訳なさそうにしゅんとしてて。
その姿が何だか可愛くて『大丈夫?』と笑いながら背伸びしてきりんの顔を撫でてあげた。
「あ、それいいですねー。二宮くん、そのまま撫でてあげてもらえます?」
カメラを抱えた松本さんに指示され、さわさわときりんの顔を撫でつける。
その間全然動かないきりんさんに笑いが込み上げて、ついぷっと吹き出してしまい。
「うん、いいですねー自然な感じで。じゃあ仲直りのハグとかどうですか?」
楽しそうな松本さんの突然のリクエストに、周りの実行委員さんたちも笑い出し。
「ふふっ…ケンカじゃないのに。ね?」
ときりんさんにぼそっと問い掛けながら、目の前の黄色いふかふかにぎゅっと抱き着くと。
少しの間のあと優しくふんわりと抱き締められて、何だか分からないけどそれがすごく心地良かった。