煩悩ラプソディ
第34章 君の瞳に恋してる/AN
和やかムードで撮影を終え、その後簡単に着ぐるみたちとリハーサルをして。
円陣なんて組んじゃって一気に連帯感が生まれた感じ。
お仕事だってこと忘れちゃいそうなくらい本当に楽しくて仕方ない。
「じゃあ時間になったらまた声掛けさせてもらいますね」
「はい、よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げた実行委員さんにつられて返事をすると、すぐにマネージャーさんに駆け寄る。
ここに来てからずっと、気持ちがふわふわそわそわしてた。
だってこんなに楽しい場所に居るのに、遠くから眺めてるだけだったんだもん。
それが外に出てこうして雰囲気を直に感じてしまったんだから、もうしょうがないよね。
「あの…ちょっとだけ校内を回ってみたいんですけどダメですか?」
窺うように口を開けば、マネージャーさんはう〜んと考え込んでしまったけど。
これが翔さんだったら『ダメだ』ってすぐ返されるに決まってて。
でも今日はもしかしたらいけるかもってちょっと期待してるんだ。
「どうかなぁ…」
「お願いします!ちょっとだけ…」
「出番前に騒ぎになったら大変だよ?」
「あのぉ、」
腕を組んで案じるマネージャーさんにふいに被せられた言葉。
後ろを振り返ると、松本さんがニッコリ笑って立っていて。
「バレずに楽しめる方法ありますけど…やってみます?」
眉を上げてそう問い掛けられ、マネージャーさんに顔を向ければ。
なんとも言えない顔をしてたけど、勝手にそれをOKサインと取って松本さんに向かって大きく首を縦に振った。
***
ふらつく頭を必死に押さえながら中庭の立入禁止テープをくぐる。
視界も狭くてちょっと歩きにくいけど、これなら絶対バレないよね。
松本さんに提案されたのは、着ぐるみに入って校内を回るという案で。
ちょうどこの後、着ぐるみたちがステージの宣伝で回る予定だったんだって。
「二宮くん大丈夫です?」
「ぁ、はい…」
小さく声を掛けてくれた松本さんに辛うじて返事をし、覚束ない足取りでゆっくり進んでいると。
校舎の入り口まで来た所で松本さんが足を止めた。
「じゃあペアでこのチラシを配りに行こう。
二宮くんにはきりんを付けますから。
はい、いってらっしゃい」