煩悩ラプソディ
第34章 君の瞳に恋してる/AN
背の高い黄色いきりんさんと、緑色のかっぱの着ぐるみに入った俺と。
行き交う生徒さんに手を振り歩きながら、完璧に目立つ存在なのに全然正体がバレてなくて何だか楽しい。
各教室では色んな催しがあってて、キョロキョロと顔を動かし狭い視界ながらも目に焼き付けていく。
隣を歩くきりんさんは、チラシを配りながら時々俺の方も気にしてくれてて。
さっき頭をぶつけられちゃった時も思ったけど、このきりんさんはきっとすごく優しい人。
他の着ぐるみの人たちは練習が終わると頭を取ってたのに、このきりんさんだけはずっとこのままだったのが気になったくらいで。
もしかして恥ずかしがり屋なのかな。
さっきから全然喋んないし。
そんなことを考えてぼんやり歩いていた時、後ろから足音と軽い衝撃がきてバランスを崩してしまい。
「っ…!」
転ぶと思って咄嗟に目を瞑ったら、急に左腕を力強くぐいっと引かれて。
そのまま倒れこむような形になった目の前に、黄色いふかふかが広がる。
「…大丈夫?」
くぐもった声が小さく聞こえて、一瞬のことにパニックになりそうだった思考が引き戻された。
俺の重みにも動じることなくしっかりと抱き留めてくれているきりんさん。
「ご、ごめんなさ…」
言いながら慌てて体を離せば、合わないはずなのに視線が絡まってる気がして。
それが妙に恥ずかしくて、頭を支えながらぺこりとお辞儀をすると。
そっと左手を取られぎゅっと握られた。
「…行こう」
「…え?」
また小さな声が届いたと思ったら、そのまま手を引いて歩き出して。
そんな黄色い後ろ姿を見ながら、されるがままにただついていった。
賑わう声が段々と遠ざかり、それと同時に不安も募ってきて。
さっきから黙々と手を引いて前を歩くきりんさん。
何回か呼びかけたけど、その足は一度も止まることはなく。
さすがに少し怖くなってきて、引かれていた手をぐっと引き寄せた。
「ど、どこに行くんですか…?」
「……」
恐る恐る尋ねてもなんにも言ってくれない。
周りには誰も居ないし、本当に怖くなってきた。
「…そろそろ戻らなきゃ、」
「待って」
そう絞り出した時、被せるようにはっきりと聞こえた声に思わず肩を揺らした。