煩悩ラプソディ
第34章 君の瞳に恋してる/AN
どこか聞き覚えのある声。
短いその言葉の中に見え隠れする心地良い声色。
記憶を手繰り寄せるように思考を巡らせていると、ふいに手をぐいっと引かれて。
側の校舎の壁に体をぎゅっと押し付けられ、突然の出来事にたちまち恐怖に襲われる。
目の前のきりんさんは、当たり前だけどどんな顔をしてるのか全く分からない。
怖くて声すらも出なくて。
押さえられた肩は動かそうとしてもビクともしない。
何?なんなの?
俺なんかした…?
やだ…誰か助けて…
怖いっ…!
逃げられない状況に恐怖しかなくて目を瞑ると、次の瞬間にはパッと目の前が明るくなった。
おまけに外気が肌に触れ急にひんやりとする。
すぐに着ぐるみの頭を取られたんだと分かったけど、その意味が分からなくてゆっくりと顔を上げれば。
きりんさんも両手を上げて、スポッと勢い良く頭を取った。
「っ…!」
突然目の前に現れたその姿に驚いて、また声が出せなくて。
ぁ、相葉さんっ…!?
汗でしっとりと張り付いた髪に、顔中に玉の粒を光らせてまっすぐに俺を見つめる瞳。
その余りにも真剣な眼差しに、心臓を鷲掴みにされたみたいに動けない。
「…ごめんなさい、こんなことして。
でも、どうしても確かめたいことがあって…」
申し訳なさそうに口を開いた相葉さんの声。
久し振りに耳に届いたその声色が、固まっていた体をほぐすようにじんわりと胸に染み渡ってくる。
さっきのどうしようもない恐怖と突然の相葉さんの登場に、感情はもうぐちゃぐちゃで。
勝手に込み上げてくる涙を止められず、かっぱの両手で咄嗟に顔を覆うとすぐに降ってきた焦った声。
それが最後に相葉さんと会ったあの日を思い出させて、堰を切ったように涙が溢れてきた。
あぁ、相葉さん…
相葉さんだぁ…
「っ!ちょっ…二宮くん!?あっ、えっ!?」
自分でもこの気持ちをどう表したらいいか分からない。
唯一分かるのは、こんなにも俺は相葉さんに会いたかったんだってこと。
「っ…うぇ…あいばさ…」
「にっ、二宮くん…」
間近に聞こえる焦りつつも優しさのこもった声。
その心地良さを手離したくなくて、黄色いふかふかの相葉さんに泣きながらぎゅっと抱き着いていた。