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煩悩ラプソディ

第34章 君の瞳に恋してる/AN






小さく震えながら泣いている二宮くんに抱き着かれたまま、俺の頭の中はパニック寸前だった。



松潤と入念に準備してきて迎えた今日の学園祭。


あの日櫻井さんから言われたことが真実なのか、どうしても確かめたくて。


それと、二宮くんへの熱い想いも伝えたくて。


今までほぼシミュレーション通りで、やっと二宮くんと直接話ができるところまでこぎつけたのに。


突然こんな状況になった今、用意していた言葉も何もかも飛んでしまいそうになる。


もっとも、この火照った体は着ぐるみだけのせいじゃないはずで。



俺の胸でさめざめと泣く二宮くん。


その肩が震える度にふんわりと頬を掠める黒髪。


ぎこちなく回された腕は少しも緩まなくて、まるで『どこにも行かないで』って言ってるみたいで。


なんて、そんな勝手な解釈をしてしまうくらい今の状況に完全に舞い上がってしまってる。



「二宮くん…?」

「っ…ぐすっ…はぃ…」

「あ、えっと…ごめんね、俺いっぱい汗かいちゃって…」


さっきからずっと二宮くんのいい匂いが鼻を擽ってるんだけど、同時に俺の滝のような汗が気になってしょうがなくて。


見えない顔を窺いながら問い掛けたけど、離れるどころかより一層ぎゅっと力を込めてきたから本当に焦った。


「ちょ、だいじょ…」

「相葉さん…」


すぐ傍で呟かれたその声に、上がりかけていた心拍が急上昇して鼓膜に響く。


そしてぽつり聞こえてきたか細い声。


「もう…会えないかと思った…」


鼻を啜る音に紛れて絞り出された二宮くんの言葉。


その言葉に今日の本来の目的を思い出して、脳裏に櫻井さんの顔がフッと浮かんできた。


だけど、すぐにその顔を追い払うように掻き消して。


だって、この状況と今の二宮くんの言葉からして、とてもじゃないけど櫻井さんの言ったことは信じられないんだ。


その証拠に、恐る恐る小さな肩に手を回してみても全然抵抗なんてしてないし。


おまけに後頭部をそっと撫でてみても、ゆっくりと呼吸を落ち着かせるように身を委ねてるし。



これはもう完全に…


俺のことウザいなんて思ってないってことだよね…?

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