煩悩ラプソディ
第34章 君の瞳に恋してる/AN
誰も居ない中庭の隅。
校舎の壁に寄り掛かり、並んで腰を下ろす。
遠くの方ではまだざわざわと賑やかな声が響く中、木陰の下のこの空間は驚くほど静まり返っていた。
膝を抱えて真っ直ぐ前を向いたまま、ただ沈黙が二人を包み込む。
そんな静けさに反して、俺の心臓はリズム良く大きな振動を刻み続けていて。
一体どう切り出せばいいのか。
がむしゃらに全力疾走してきたものの、また急激にブレーキが掛かったように後込みしてしまってる。
それに、二宮くんの"確かめたいこと"って。
俺に確かめたいことって、やっぱりさっきのことだよね…?
気付かれないようにごくっと息を呑み、チラリ二宮くんの様子を窺う。
キャップの翳に隠れた瞳は伏せられ、真っ白な頰ときゅっと結ばれた形の良い小さな唇。
その横顔が、初めて出会ったあのコンビニの二宮くんを思い出させて。
途端に勢いを増す心拍。
こうして何度も急上昇してしまうのは、他でもない二宮くんがすぐ傍に居るから。
いつまでもこうしてたって埒があかない。
このどうしようもない気持ちは、二宮くんに伝えるほか実る術はないんだから。
「あの…」
ぐっと膝を引き寄せながら呟けば、ぴくっと反応する隣の肩。
同じようにぐっと引き寄せられた膝を視界の端に捉えつつ、早まる鼓動を遮るように言葉を続けた。
「さっきびっくりしたよね…?
ほんと…ごめんね」
静かにそう告げると、ふるふると首を振り続きを待つように押し黙る二宮くん。
「俺の…好きはね、その…
そういう"好き"なんだよね…」
ゆっくりと言い終えた後、こくんと小さく頷いたのが見えて思わず顔を上げた。
思いの外近くにあったその顔は、キャップで翳っていても分かるほど耳も頰も真っ赤に染まってて。
そして見え隠れする口元が動いたのと同時に、小さく発せられた声。
「相葉さんの気持ちは…分かりました。
でも…」
そこまで言って口籠ったから、その理由はただひとつだって直感した。
…気持ちに応えられない、って…ことだよね?
そう思ってしまったと同時に、胸の中に抉られるような痛みが走る。
目の前で一段と小さくなってしまった二宮くんに、逆に申し訳なさが募ってきて。