煩悩ラプソディ
第34章 君の瞳に恋してる/AN
「俗に言うスカウトってやつ?」
なんて、呑気に頬杖をついてモグモグ口を動かすその顔に開いた口が塞がらない。
「っ、ちょっ…待ってよ!そんなの聞いてねぇしっ!」
「うん、言うわけないじゃん。言ったら台無しだし」
「そっ、そんなの出来るワケねぇだろっ!」
「大丈夫だって、相葉くんカッコいいし」
「おい笑ってんなっ!思ってないクセに!」
俺を抜きにして勝手に進んでるそんな話、呑める訳がない。
つーかそもそも何?
モデルだって?俺がっ…?
「ま、とりあえずさ。二宮くんと同じ事務所に入ることになるんだから。
もしかしたら会える機会増えるんじゃない?」
頬杖をついたままポテトで俺を指してくるニヤニヤ顔。
その言葉に思わずぐっと口を結ぶ。
あの日、俺と二宮くんはお互い好き同士だって認識し合った。
そう、言わば"両想い"ってやつ。
あの時はお互いに気持ちが溢れすぎてキスまでしちゃったけど。
実はあれ以来、まだ二宮くんとは会えていなくて。
とりあえず交換したLINEでのやり取りに留まっているここ数日。
けれど、そんな文字だけじゃ正直言って俺の欲求なんて解消されるハズはなく。
あの日の二宮くんの唇や抱き締めた感触が忘れられなくて、やるせない夜を送っているのは確かで…。
「ぁ、櫻井さん」
「えっ?」
スマホを弄っていた松潤は小さく声を上げ、すぐにそれを耳に宛てがう。
「はい、お疲れさまです。あ、はい…」
チラチラ俺の方を見ながら話をしてるけど、そのニヤけた顔からはイヤな予感しかしない。
「…わかりました、多分大丈夫です。
はい、じゃああと20分くらいで。はい失礼しまーす」
電話を切ると『じゃあ出よっか』と言って席を立とうとするから慌てて引き留めた。
「ちょっと!櫻井さん何だったの…?」
「え?今から事務所来てって。契約ね」
「は?いや待てって!マジで!?」
平然と言ってのけてるけど…
契約?いきなりっ…!?
「マジで。はい、行くよ」
「ちょっ、引っ張んなって!」
「二宮くん居るかもよ?」
「えっ!?」
「ふふっ、かもだけど」
からかうような笑みの松潤にぐいっと腕を掴まれて、半ば引き摺られるように店を出た。