煩悩ラプソディ
第34章 君の瞳に恋してる/AN
それからの俺たちは、お互いに与えられた仕事に一生懸命向き合った。
セカンドシングルの発売も決まった二宮くんの人気は右肩上がりで。
その可愛らしいビジュアルから男女問わず絶大な人気を集めている。
…男からの人気に関しては実際よろしくないんだけど。
でも、今までよりうんと二宮くんと一緒に居られる時間が増えたのは事実で。
業界に片足だけでも突っ込んでる俺と二宮くんが一緒にいることは、ファンの子たちにとっては何ら問題ないらしい。
もしかしたら櫻井さんはそれも見越してたのかな、なんて。
今となってはそんなの分かんないけど。
「まーくんっ!」
事務所の階段を上ろうとして聞き慣れた声に振り返る。
「あ、お疲れさまです」
「もぅ…やめてよ敬語」
頰を上気させたまま、ツンと口を尖らせて俺を見るうるうるの瞳。
「だって先輩でしょ」
「いいのっ、今は二人なんだし…」
言いながら袖をぎゅっと掴んで見上げられ。
実はこの可愛い顔を見たくてワザと敬語を使ってる、なんて二宮くんには絶対言えない。
それに。
「二宮くんこれから?」
「うん、打合せ。ねぇ…」
「ん?」
「…かずでしょ」
何かを期待するようなその瞳にトクトクと高鳴る心臓。
「…だってここ事務所、」
「ねぇまーくん…チューしたい」
「なっ…」
ぐっと近付いてきたぽわぽわの表情に、思わずゴクリと唾を呑み込む。
…そう、二宮くんは見かけによらず超積極的なんだ。
その可愛さに押されたらいくら俺の方が年上であっても丸め込まれちゃうくらい。
「ちょ、かず待っ…」
「やだ…早くしよ」
「っ、かずっ…」
「おい、ちょっとそこ通してくんねぇか」
階段の壁へと迫られていた時、背後から響いた声に二人して顔を向けた。
「おー悪りぃな、じゃ続きどうぞ」
怠そうな口調の茶髪の男は、ポケットに手を突っ込んだまま階段を上っていって。
うちの事務所に何の用?と思っていると、ふいに触れた柔らかな感触。
すぐに離れたと同時に、目の前に現れたいたずらっぽい瞳。
その瞳が隠す事なく気持ちを伝えてくるから。
同じ様に真っ直ぐ見つめて想いを届けた。
「…好きだよ、かず」
…出会った時から、ずっと。
end