煩悩ラプソディ
第1章 それはひみつのプロローグ/ON
あのね、大野さん…
俺ね…
「…おかしいの。」
「…うん?」
目を伏せてポツリ言うと、確かめるように首を傾げて訊ねてきた。
「…おかしいの、俺。
あなたのね、こと考えると…」
消え入りそうな声でポツリポツリと話す言葉を大野さんは黙って聞いている。
「…これってね、なんなんだろって思ったの。
これってさ…その…」
言いながら、だんだん俯いてしまった。
肝心なことが言えない。
いや、そもそも言ってなんになる?
…きっと気持ち悪いって思われる。
これからどうやって接してけばいい?
のぼせた頭の中で巡る思考が、ここまで自分が口走ってしまった言葉を後悔に変える。
…もうやめよう。
言いかけた言葉も、この想いも…
全部やめにしよう。
「…や、ごめん。なんでもない。
あ、熱…ないから、」
「言って」
俺の言葉を遮るように大野さんがはっきりとそう言った。
「言って?思ってること、ぜんぶ」
目を上げると、さっきの困ったような瞳じゃなく穏やかで優しい眼差しがそこにあった。
「にのが思ってること…教えて?」
俺の右腕を掴んでいた手を離すと、今度は両手で俺の手を握った。
そこから伝わる温かさにまたじんわりと熱が上がってくる。
大野さんの声。
大野さんの眼差し。
大野さんの温かさ。
このどうしようもない愛しさを、
今なら、
この人だから…
伝えられるかもしれない。
俯いて、視線を彷徨わせながら静かに口を開いた。