煩悩ラプソディ
第36章 愛のしるし/AN
ズキズキと疼くような痛みで意識が引き戻される。
ゆっくり目を開けると、どこか見覚えのある天井。
重い頭を動かせば、白いカーテンが視界に入り。
そして独特な消毒液のような匂い。
寝かされているここが保健室だという事に、その時ようやく気付いた。
何がどうなったんだっけ…
速攻練習でひたすらコートを走ってて…
つい今日のスタメン発表のことを考えてしまってたのは確か。
だからボールの行方が一瞬分からなくなっちゃって…
それで俺どうなったの…?
必死にさっきの記憶を手繰り寄せていた時、カーテンの向こうでドアの開く音がして。
「松潤、二宮どう?」
「おい失礼しますは。それに松本先生だろうが」
ガラッと言う音と同時に聞き慣れた声がして、思わずカーテンを見つめる。
「あいつならまだ寝てるぞ。全身見たけど別にどうもなっちゃいねぇな」
「そっか…なら良かった」
松本先生の"まだ寝てる"って言葉にどきっとして、反射的にぎゅっと目を瞑った。
つーか全身見られたんだ…
まぁいいけど…
保健室の先生なんだから当たり前だけど、自分の意識のないところで体を見られるのはやっぱり恥ずかしい。
それに俺、色も白くて細っこいし。
女子みたいなちっちゃい体だからあんまり人に見られたくないんだよな。
そんなことを思っていると、急に近くなった気配に気付いて。
カーテンの向こうに相葉先輩の影が見えて、どきっと胸が高鳴った。
「じゃあ俺もう帰るわ。あと頼んだぞ、相葉」
「へーい」
言いながらガララっとドアを開けた松本先生。
とっくに就業時間過ぎちゃってたんだろうな。
俺のせいで残業になったんだ、先生。
「…二宮?」
ふいにカーテン越しに小さく呼び掛けられ、更にどきどきが増してくる。
そのせいなのか、返事をすればいいのになぜか出来なくて狸寝入りを決め込むしかなくて。
そっとカーテンを開いて入ってきた気配に、頭にぶわっと熱が回るような感覚がした。