煩悩ラプソディ
第36章 愛のしるし/AN
保健室のベッド上でのまさかのスタメン発表から数日。
今までより一層バスケに打ち込む日々が続いて。
でも忘れちゃならないのは、うちが"文武両道"を掲げている学校だということ。
新人戦を一ヵ月後に控えてはいるものの、今週から始まる期末テストにも同じように向き合わなくてはならず。
しかも監督からは厳しい通達事項が。
『期末テストで一教科でも平均点以下があればスタメン落ち』
…いやいやこんなのってある?
そりゃ成績も大事だけどさ、俺たちにはもっと大事な新人戦があるってのに!
相葉先輩たちにとっては、これが自分たちの力を試す初めての試合になるんだ。
俺にとっても念願だった相葉先輩と同じコートに立てる初めての試合。
絶対にスタメンから落ちる訳にはいかない。
何が何でも全教科平均点以上取らなきゃ…!
と意気込んではみたものの、さっきから全く進まない課題を前にだらりと机に項垂れる。
英語は俺の一番苦手な教科。
他のは何となくやってたら平均点以上は取れそうな気がするんだけど、この英語ばっかりはそうはいかない。
現に問題の一問目でつまづいてるし。
え~この単語なんだっけ…
文法とかさっぱり分かんねぇし…
こないだ相葉先輩に教えてもらったのにもう飛んでる…
自習室のいつもの特等席に陣取るだけ陣取り、突っ伏したまま真っさらな課題ノートをぼんやりと眺めて。
おもむろにシャーペンを手に取ると、ページの端にすらすらとバスケットボールとゴールを描いた。
ここ数日はテスト前で部活が時短になっていて。
鈍らない程度にしか動けていない体は、今すぐにでもバスケがしたくてうずうずしてる。
って言ってもついさっきまで練習してたんだけどさ。
正直あんなんじゃ足んない。
もっとやんなきゃ俺は。
じゃないと試合で何にもできないよ。
隅に描いたゴールにペン先をトントンとつけながら、もやもやは募っていくばかり。
この不安を掻き消せるのはバスケしかない。
練習は嘘をつかないんだって相葉先輩がいつも言ってるじゃん。
よしっ…!
そう意気込んでノートをパタリ閉じたと同時に、ぽんと頭に置かれた重み。
「こーら」
「っ、せんぱいっ…」
「なにノートしまってんだよ」