煩悩ラプソディ
第36章 愛のしるし/AN
それから小一時間、あーでもないこーでもないと言いながら先輩と英語の課題に取り組んだ。
「……うん、正解!」
「うわやった!終わったあ〜」
最終問題を解き終えて先輩の合格を貰うと、そのまま机上のノートになだれ込む。
「頑張ったな〜」
よしよしと大きな手で頭を撫でられ、疲れたフリして赤い顔をノートに伏せていたら。
「じゃあ次は俺の番ね」
そう言ってテレビの方へ向き直りがちゃがちゃとゲーム機を取り出す先輩。
「…え?ゲームするんすか?」
「ふふっ、ちげーよ。DVD観んの」
「DVD…?」
「そ。お前と観ようと思って」
背を向けたまませかせかと準備をする背中を見つめ、DVDという響きに一瞬良からぬ思いが駆け巡って。
えっ、まさか先輩っ…!?
「せ、先輩っ!俺まだそういうのは…」
「ん?え、お前観たことないっけ?」
「あ、いやその…」
観たことなくはないけど、先輩とそういうの観ちゃったら俺っ…
「ほらこっちおいで。始まる」
ローテーブルを適当に押しやって、俺の腕をぐいっと引っ張る逞しい手。
思わずバランスを崩してしまい、先輩になだれ込む形になったまま胸の高鳴りは増すばかり。
画面が白くなったのが見えて思わずギュッと目を瞑ったら。
急に聞こえた歓声。
予想だにしてなかったその音に恐る恐る目を開ければ。
そこに映っていたのは、バスケの試合の映像で。
「こないだのBリーグのやつ。すげーんだよマジで」
キラキラと瞳を輝かせて至近距離で見下ろされ、色んな意味で恥ずかしさが込み上げてきて。
…俺ってば何考えてんだバカっ!
体を起こしながら赤くなった頰をごしごしと擦っていると、急に肩をバシバシと叩かれ。
「今の観たっ?すげぇだろ!」
「あ、すみません観てな、」
「何で観てねぇんだよっ!ちょ、お前こっち来い!」
言いながらぐいーっと引き寄せられた腕。
よろけながら動かされた先は、あろうことか先輩の座る真ん前。
「お前ここ。こうすりゃ俺と同じ目線で観れんだろ」
すっぽりと先輩の腕に収まる格好で、すぐ後ろから心地良い声が耳に届いて。