煩悩ラプソディ
第36章 愛のしるし/AN
なにこれ。
なんなのこの状況…!
テレビ画面から流れる歓声に負けないくらい、俺の心臓はバクバクと鼓膜に響き渡っている。
ベッドを背に投げ出した先輩の長い脚の間に、ちょこんと体育座りの俺。
ただでさえちっこい体を更に縮ませて固まるしかない。
けれど後ろからは、至近距離で先輩の声が耳を擽り続ける。
「観たか?今の。お前がああやって動いたら翔ちゃんがシュート打ちやすくなんだろ」
「は、はい…」
「あっ、ここ!ちょ、もっかい巻き戻し!」
言いながらコントローラーに手を伸ばした拍子に体が密着して、また心臓がどくんと跳ね上がる。
画面を指差しながらあれこれ説明する間もずーっと先輩と体がくっついてて。
ちらちら行き来する長い指をただただ目で追うので精一杯。
せっかく説明してくれてんのに、頭の中で全然理解出来てないのが分かる。
ダメだ…集中しなきゃ。
治まれ、俺の心臓っ…!
気合いを入れようと、膝を抱えていた拳をぎゅっと握った時。
「いいか、この選手見てろ」
そう言って画面を示されたのは、俺と同じポジションの小柄な選手。
言われた通りにその姿を目で追っていると、自然と先輩の説明も耳にすっと入ってきて。
このチームが仕掛けるオフェンスは、今俺たちがやろうとしているサインプレーを応用したもの。
そしてこの選手はまさに俺が目指すプレーを卒なくこなしていた。
流れるようなプレーにただただ圧倒されて。
けれど先輩は、全ての動きをうちのチームに当てはめて俺に説明してくれる。
その口振りから、本当にこの新人戦にかける先輩の思いが伝わってくるようで。
食い入るように観ていたからか、いつしか密着した体は気にならなくなっていた。
むしろもっと色んな試合を観たいという気持ちが生まれてて。
先輩とバスケの話が出来ることが純粋に嬉しかった。
「先輩、俺がここに動いた方がいいですよね?」
「うん、それもいいけど俺ならこっちかな」
二つの指が画面を行き来する作戦会議。
それは、部屋が暗くなっていくのに気付かないほど熱中した時間だった。