煩悩ラプソディ
第36章 愛のしるし/AN
その日の練習後、部室は只ならぬ空気に包まれていて。
新人戦を見据えた紅白戦を何本かやった中、俺たちスタメンチームの成績はすこぶる悪かった。
特に櫻井先輩のシュートミスが目立っていて、いつもならしないようなイージーミスも連発で。
それに自分自身で分かっている櫻井先輩は、感情のやり場が無くてさっきから不穏な表情が続き。
…加えて相葉先輩も。
さすがに今日の櫻井先輩の態度には我慢出来なかったのか、練習が終わるとすぐに櫻井先輩を呼び出してて。
二人で何か話してたけど、俺ら一年はそこに近付ける訳もなく。
俺らが黙々と片付けをしている間もずっと二人は話し込んでいた。
そして遅れて部室に入ってきた二人の雰囲気に、俺ら一年はたちまち凍りついてしまって。
しんと静まり返ったまま、背中合わせで着替えをする二人を黙って待っている状況。
先輩より先に帰れない俺らは、ただただ居心地の悪さを感じながらその場に立っていた。
「…あ、いいよ先帰って。お疲れ」
そんな俺らを見兼ねた相葉先輩が、シャツのボタンを留めながら口を開く。
そのいつもと全く違う口調から、ピリピリした雰囲気が伝わってきて。
これは社交辞令じゃなく本当に帰った方が良さそうだとその場に居た全員が思って、控えめに挨拶をして部室を後にしようとした時。
「…二宮、お前ちょっと残れ」
背後から聞こえた櫻井先輩の声。
思わず振り返れば、じっとこちらを睨むように見つめる櫻井先輩の瞳。
「は…はぃ…」
掠れた声で返事をしながら縋るように同級生たちに視線を送っても、哀れみの表情を残して帰っていくヤツら。
パタンと閉められたドアの傍で、未だ無言のままの二人を前に冷や汗が出てくる。
「…二宮、」
「っ、はい!」
急に櫻井先輩から呼ばれて、この場に似つかわしくない声量で返事をしてしまい。
「…今日の俺のプレー見てたろ。どう思った?」
「え…」
「ミスしてたろ。どう思ったかって聞いてんだよ」
「え、いや…」
長椅子に座っていかにもイライラしている櫻井先輩を前に、面と向かってそんなこと言える訳がない。