煩悩ラプソディ
第36章 愛のしるし/AN
「…そんなのこいつが言える訳ねぇじゃん。聞き方考えろよ」
すると静かに口を開いた相葉先輩の低い声。
こんなに怒ってる相葉先輩…初めてだ。
何だかそれだけでビビっちゃって、何も言われてないのに泣きそうになる。
「…あのね、二宮。翔ちゃんこれでも反省してんだよ。だからさ、翔ちゃんの為にも思ったこと言ってやってくんない?」
今度はいつもの優しい相葉先輩の声でそう言われて、この追い込まれた状況に混乱して本当に涙が込み上げてきて。
やばい…
泣きそ…
「…え、おいお前泣くなって!」
じっと俺を見つめていた櫻井先輩の慌てた声が聞こえる。
唇を噛んで堪えようとしても、堰を切ったように溢れてくる涙は止めようがなくて。
ダメだ、先輩たちの前で泣くなんてっ…
「っ、すみませっ…」
後ろを向いてごしごしと目を擦っても、全然止まってくれない涙。
「も〜翔ちゃんの言い方!さっき話してたの台無しじゃん!」
言いながら近付いて来る相葉先輩の気配。
そして急にガバッと包まれた体に驚いて顔を上げれば。
「も〜泣くなよ二宮ぁ」
後ろからぎゅっと抱き締められたまま、優しく笑う声が耳元で響いて。
されるがままによたよたと移動させられて、櫻井先輩の向かいの長椅子に腰掛ける形になり。
って俺、先輩の膝に座ってるっ…!
「あ、あのっ、先輩っ…」
「なに?泣き止んだ?」
「ふはっ、おい赤ちゃんじゃねぇんだから!」
後ろから顔を覗き込まれて、恥ずかしさで涙も引っ込んでしまった。
しかも櫻井先輩は楽しそうに笑ってるし。
なに?なんなの!?
「いや悪ぃな。俺の聞き方が確かに間違ってたわ」
「そりゃそうでしょ。あんな言い方したら誰も答えらんねぇってば」
尚も笑いながら俺を無視して弾む会話に、とにかく先輩の膝から下りようと身を捩ると。
『あぁごめん』と言って脇に手を差し入れられ、ふわりと持ち上げられた体。
「わっ…!」
「軽っ!だからお前ちゃんと食えって言ってんだろ」
隣にすとんと下ろされ更に畳み掛けられて、悔しいけど恥ずかしさでいつもの軽口も叩けない。