煩悩ラプソディ
第36章 愛のしるし/AN
聞けば、今日の櫻井先輩のプレーに誰も何も言えなかったことが問題だっていう話で。
櫻井先輩としても、自覚する程の不甲斐なさだったにも関わらずチームの誰からも責められなかったことがショックだったと。
「…俺ってそんなにわがままにやってっかなぁ…」
「だからさ、翔ちゃんはすぐ態度に出ちゃうからダメなんだってば」
はぁ~と溜息をつきながら項垂れる櫻井先輩に、相葉先輩が宥めるように声を掛ける。
「みんな翔ちゃんの実力を分かってるし、そうやってすぐ態度に出ることも分かってんの。そりゃ言えないでしょ、俺ぐらいしか」
『なぁ?』とふいに問い掛けられ、一瞬迷ったけど遠慮がちにこくんと頷いた。
確かに櫻井先輩は相葉先輩と並ぶうちの二大エース。
コート上での二人の連携プレーは、一緒にやっていても思わず見惚れてしまうほど華麗なもので。
だけど櫻井先輩と相葉先輩には絶対的に違うところがある。
それは、試合中に纏うそれぞれの雰囲気。
櫻井先輩の調子が良いとチームが盛り上がるのは事実。
でも、そうじゃない時にもそれは影響していて。
言わば、櫻井先輩の調子次第でチームの行く末が決まるような状態。
そしてまだ新チームになって間もない俺たちを必死に纏めようとしている相葉先輩は。
そんな櫻井先輩の調子に関係なく、いつだってチームを鼓舞するような声掛けや態度で試合に臨んでいるんだ。
今までは外から見るだけだったからそんなに気付かなかったけど。
同じコートでプレーして初めて分かる、先輩の小さな心遣い。
同じ空間で同じ温度だからこそ感じられる、それはそれは些細なこと。
でもそれが、俺みたいな一年坊主にとってどれだけ心強いものか。
そういうところが凄く尊敬できて…
凄く凄く、惹かれるんだ。
「…なぁ二宮、お前は一年だから言いにくいかもしれねぇけどさ」
「っ、はい…」
「コートに立ったら先輩も後輩もないから。チームの代表としてプレーしてるだけだからさ」
ぽつりぽつりと続ける櫻井先輩は、言葉を選ぶように視線を彷徨わせていて。