煩悩ラプソディ
第36章 愛のしるし/AN
「…何でも言ってほしい。つーか言え。先輩命令だ」
「おい!そんなの言いにくいわ!」
すかさず相葉先輩が突っ込みを入れて、場の空気がまたやんわりと和む。
「…俺らはさ、遠慮し合ってちゃ勝てないんだよね。
お前は一年でただ一人スタメン勝ち取ったろ?他に二年の奴らも居る中でさ」
ふいに隣から先輩の柔らかな声が届いて。
「お前の頑張りは他の奴らも認めてるよ。ポイントガードは二宮しかいないって」
「えっ…」
「だからもっと自信持っていいから、な?
俺とか翔ちゃんに喝入れるくらいの勢いでイケよ」
「えっ!いやそんな…」
肩をガッと掴まれて急にそんなこと言われても…
だけど、これって相葉先輩にちゃんと必要とされてるってことだよね?
俺の存在がこのチームに必要だって言ってくれてるんだよね…?
「ほら、翔ちゃんに言ってやんな。お前のせいで今日は負けたんだぞって」
「ぐっ…確かにそうだけど…」
「…櫻井先輩、」
ぎゅっと膝に拳を握って向かいの櫻井先輩を見つめると、急に真顔になった俺を受けてその表情が畏まった。
「今日の紅白戦…いつもの先輩じゃなかったっす。
シュートのタイミング全部ズレてました」
「お、おぅ…」
「それと俺がボール運んでる時も目合わせてください。
結構チャンスあったのに全然パス出せませんでした」
「あ、はい…」
真っ直ぐに目を見て伝える間、心臓はどきどきしっぱなしで。
でも今言わなきゃ、俺も自分の殻を破らなきゃって。
チームの一員として、一緒にコートに立つ人間としてやるべきことをやんなきゃって。
「あと相葉先輩が切り込んでる時に外の位置取るの早すぎっていうか…それだと狙ってるのバレちゃうんで」
「…はい、すみません」
「あとディフェンスの…」
「もういいよー!雅紀助けてー!」
思わず前のめりで話してしまい、耐えられなくなった櫻井先輩が相葉先輩に泣きつく。
「ふふっ、やるなぁ二宮。やっぱよく見てるわ」
『お~よしよし』とわざとらしく櫻井先輩の頭を撫でる相葉先輩に、つい言い過ぎてしまったと今更ながら後悔が募る。
でもなんだろう、この爽快感。
何だかやっと先輩たちと同じ土俵に立てた、そんな感覚。
俺、今日で凄く成長できた気分。
先輩…ありがとうございます。