煩悩ラプソディ
第36章 愛のしるし/AN
沁み入るような澄んだ青空。
はぁっと息を吐くと、軽やかな粉雪がふわりと舞って蒸気の中へ消えた。
なんだか今年は良いことがありそうな予感。
いや、もうすでに俺の今年の運勢は決まったも同然なのかも。
…だって。
待ち合わせの改札口で、マフラーに口元を埋めつつスマホを見つめる。
辿るのは年末の先輩とのメッセージのやり取り。
『もうすぐ今年も終わるな』『そうですね』なんて他愛もないメッセージの最中、ぽんと現れた返信に息が止まったのを覚えてる。
"お前元旦の日って何してんの?
ヒマだったら初詣でも行く?"
新しい年の始まりの一番最初に会う人が相葉先輩だなんて。
もうこれは神様が俺に味方してくれてるとしか考えられない。
その年末のメッセージから昨日までのやり取りをスクロールで辿りながら、頬が緩まっていくのを抑えられなくて。
正月に一緒に初詣に行くなんてさ…
もうデートみたいなもんじゃん。
先輩と初めて二人っきりで出掛けるのがこんなシチュエーションだなんて。
言ってみれば王道デートパターンだよね?
「…んふ」
どうしても漏れてしまう笑みをマフラーで隠し、赤くなった指先でスマホ画面を撫でていると。
「にーのみやっ」
ふいの聞き慣れた声にぱっと顔を上げれば、そこには満面の笑みで近付いてくる待ち焦がれた人が。
うわ…かっこい…
思えば相葉先輩の私服なんて今まで見たことなかった。
目にしたことがあるのは制服か練習着かユニフォームのどれかで。
背が高くて顔がちっちゃくて手足も長い先輩のことだから、何を着ても絶対カッコいいと思ってはいたけど。
マフラーとニット帽、Pコートにジーンズ。
たったこれだけなのにどうしてこんなに様になるんだろう。
こうなると一緒に居る俺は完全に引き立て役。
いや引き立て役にでもなれればいいんだけど、俺みたいなのが隣に居ていいのかって急に不安感に駆られる。
「さみぃなーやっぱ。あれ?お前また手袋ねぇの?」
「あ…忘れちゃいました」
「ったく、しょうがねぇなぁ」
ほら、と差し出された左の手袋と小さいホッカイロ。
「帰りはこっち入れてやるから」
そう言ってコートのポケットをポンポンと叩くその笑顔に、胸がとくんと高鳴った。