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煩悩ラプソディ

第36章 愛のしるし/AN






人波から解放され、ふぅっと白い息を吐く。


あれから本殿へ辿り着くまでの間ずっと、しっかりポケットの中で握られていた手。


しかも普通のぎゅっじゃなくて恋人つなぎだったんだから。


どういうつもりなのか知らないけど、おかげでじんわり汗ばんでしまったじゃんか。


その手はもうすっかりお互いのポケットの中だけど、わざと手袋持ってこなくて正解だったなって。


俺ってもしかしてあざといのかな。



「なぁ二宮、何お願いした?」

「え?」

「さっき。何てお願いしたの?」


くるりと丸い瞳が真っ直ぐに見つめてくる。



つられて思わず口を滑らせかけたけど、だめだめ。


これは絶対言っちゃだめなやつ。


"先輩と両想いになれますように"


なんて、言えるわけないもん。



「言わないっすよ。言ったら叶わないし」

「え〜教えてくれてもいいじゃん。
あ、分かったアレだ」

「それ違います」

「まだ言ってねぇだろっ!」



笑いながら突っ込まれるけど、だって絶対違うもん。


先輩が分かるわけないし。


てか分かってもらっちゃ困るし。



「アレだろ?身長伸びますように」

「くはっ、違うし!」

「強がんなって、叶うといいなー」

「もうっ、違いますって!」


からかうように頭を撫でられて、口では一応抵抗してみる。


「お前何センチだっけ?」

「……168っす」


うそ。
ほんとは165。


「…先輩は?」

「俺?多分180くらいかなぁ。けど4月からまた伸びてるかも」


ニット帽のてっぺんを触りながら何でもないようにそう言ってのけて。



こうして見るとやっぱり先輩って背が高いよな。


俺と20センチ近くも身長差があるなんて。


バスケをしててこの身長がずっとコンプレックスだった。


それは今でも変わらないけど、でも俺のこの身長だからできることだってあるし。


何よりも、俺はこの位置から先輩を見上げるのが好きなんだ。


どこから見たってカッコいいのは変わらないんだけど、特にこの下からの角度がお気に入り。


そして俺に向けてくれる優しい笑顔が好き。


もうぜんぶ…
ぜんぶぜんぶ大好き。



「俺はねぇ」

「…えっ?」

「俺の願い事はね、」


あ、そういえばお願いごとの話してたんだっけ。

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