煩悩ラプソディ
第36章 愛のしるし/AN
「ずーっとLINE既読になんなかったからお前んち行ったんだけどさ」
「っ、えっ!?」
さわさわと腕を摩りながら衝撃的なことを言われ、思わず勢い良く顔を上げる。
「姉ちゃんが出てきて熱があるって言われてさ。
あぁだからかって」
「え…先輩、うち来たんすか…?」
「うん。なんかあったのかなって心配だったし」
「……」
真っ直ぐ見つめられてそんなこと言われたら。
せっかく鎮ませてた気持ちがまた膨らんじゃう。
「それにさ、あの日お前なんか変だったじゃん?
帰り際。もしかして俺なんかしたかなーって…」
言いながら窺うような瞳を向けてくる先輩。
俺よりうんと高い位置にある筈なのに、どこか上目遣いみたいなその眼差し。
そんな仕草にもいちいち胸が高鳴って、未だ掴まれたままの腕がじわりと熱くなってきて。
「何も…ないです。先輩のせいとかじゃなくて、ほんとに体調悪かったんで」
「ほんと?なら良かった」
途端に明るくなった表情で、お決まりのように頭をぽんぽんと撫でられる。
「俺嫌われたかと思ったわ」
焦ったーと言いながら向けられる笑顔に、胸がズキンと痛くなった。
嫌いになれたらどれだけいいか。
でもそんなことできる訳ない。
やっぱりだめだよ。
やっぱり俺…
頭を撫でられながら、どうしても抑えきれない想いがまた込み上げてきて。
優しく見下ろしてくる瞳をジッと見つめ返せば、ん?と眉を上げて顔を屈ませてくれる。
言葉には出来ないから、せめて先輩の目を見ていたい。
あわよくば俺の想いがこの眼差しで伝わりますように。
先輩…
俺、相葉先輩が…
好きなんです…
「…どした?」
何も言わない俺に更に視線を合わせるように顔を屈ませてくれる。
頭を行き来していたその手が滑り、そっと頰に触れようとした瞬間。
「さぁ始めるぞー!」
監督の声が体育館に響き渡り、長い指の先がぴくっと触れた。
「っ…行きましょ!」
「えっ、あぁ」
するりと先輩の脇をすり抜けて監督の元へと走る。
神様…
この期に及んで諦めの悪い俺を許してください。
口には出さないから、どうか想わせててくれませんか?
叶えてくれなくてもいいから。
先輩のこと…
まだ好きでいさせてください。